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西郷隆盛、坂本龍馬も愛読…『言志四録』が教える“不安のしずめ方”

2021年01月01日 公開
2022年12月07日 更新

長尾剛(作家)

 

今人おおむね口に多忙を説く。その為す所を視るに、実事を整頓するもの十に一、二。【言志録31】

世間の人は、だいたい「仕事が忙しすぎる」「忙しくて身体が休まらない」とボヤいている。だが、一度足を止めて、その仕事の内容をじっくり省みるがよい。後回しにしても構わないこと。仕事相手に気を遣いすぎて無駄な作業までやっていること。

果ては、放っておいても実害がないのに手を出していること……。そんな無駄な仕事の何と多いことか。実際は、忙しいと思ってやっている仕事の10のうち9か8は、やらずに済むことであり、本当にすべきことは10のうち1か2程度に過ぎない。

なのに、その10の仕事を、どれもこれも必死に続けていれば、心身ともに疲れ果ててしまうのは当然だ。複数の仕事は、まずは本当にやるべきことだけを吟味して、無駄をはぶくことから始めるのが、心身の健康を保つ秘訣である。

 

 (不運の)ことは皆、天のわが才を老せしむる所以。【言志録59】

人生には様々な不運が舞い込んでくる。苦しみや悩み。予想外の出来事。他人の心ない誹謗中傷……。けれど、それらをただ嘆いていたって、何も始まらない。

いっそのこと、それら不運は「天が、私の心と力を鍛えるために与えてくれた試練だ」と思ってしまえばよい。乗り越えて自分を成長させるチャンスだと思うのだ。

そうやって万事ポジティブに捉えれば、おのずと不運解決の道は見えてくる。自分という人間が、より磨かれる。

 

およそ生物は欲無き能(あた)わず。ただ聖人はその欲を善処に用うるのみ。【言志録110】

あれが欲しい。こうなりたい。贅沢したい……。そうした欲望は、誰しも持っている。欲望とは、天が等しく人に与えてくれた「贈り物」なのである。

だから、欲望そのものを否定するのは、自分で自分を「人間としてまるごと否定する」ようなもので、愚かな発想だ。欲があるから、その欲のために人はがんばれる。欲は、生きる活力源だ。欲のない者は死人も同然だ。

だったらなぜ、ある人は、欲望のために悪を為し、人生を台無しにしてしまうのか。それは、自らの欲だけしか見えなくなって、欲をコントロールできなくなるからだ。

その欲にともなうリスクや他人への迷惑、人生設計の根本的なミス……。そうしたものに、目が届かなくなるからだ。

真っ当な人間なら、自らの欲を少しずつ満たしつつ、社会や周囲にも認められる人物となれる。そうやって欲をコントロールして生きる。欲望がわいたなら、それを否定すべきではない。ただ、それを段階的に満たす工夫を考えるのである。

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一時の利害に拘りて、久遠の利害を察せず。【言志録180】 >

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