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西郷隆盛、坂本龍馬も愛読…『言志四録』が教える“不安のしずめ方”

2021年01月01日 公開
2022年12月07日 更新

長尾剛(作家)

 

一燈を提げて暗夜を行く。暗夜を憂うることなかれ。【晩録13】

どんな暗闇でも、一張りの提灯があれば進める。人生もまた同じ。どんなに辛く苦しい時でも、何かたった一つの希望を持てれば、それを頼りに歩んでいける。

辛い時は、何でもよいから小さな希望を一つ持つ。大それた希望などでなくてよい。ごく手近な希望で、十分に一歩前に出られる。

 

客気(かっき)もまた気なり。ひとたび転ずれば正気となる。【晩録17】 

大きな苦難を目の前にして、どうしようもなくなった時には、根拠のないカラ元気を出すほうが、ただ失意の内に沈んでいるよりずっとよい。「気持ちだけは負けないぞ」と、自らを鼓舞する。その心意気が、本物の元気となり、苦難に挑む勇気を生じさせる。

その「本物の元気」とは何か。自分の中にある臆病さや卑怯な気持ちを打ち払い、あとはただ、ひたすら真剣に真面目に挑む心である。そうした元気には、周りも心を動かしてくれて、救いの手をきっと差しのべてくれる。

 

三百六旬、日として吉ならざるなし。一念善を作す、これ吉日なり。【晩録252】

人はよく「今日は吉日だ」「凶の日だ」と、日付の「吉凶」を気にする。だが、そもそも吉日も凶日も、始めから決まっているものではない。良いことが起これば「吉日」で悪いことが起これば「凶日」だと、後付けで思い込んでいるだけである。

そもそも、良いことは「起こる」のではなく自分で「起こす」ものだ。悪いこともまた同じ。となれば、どんな言動にせよ、その日一日を懸命に過ごして日暮れに「今日の私はがんばった」と納得できれば、その日は吉日なのである。

そして、その心構えで日々を過ごすなら「一年、毎日吉日」なのである。だとすれば、年の始めに「今年は毎日、吉日にするぞ」と思えれば、そうなるのだ。

 

養生も、また我が道に他ならず。【耋録291】

人の行動力には、それぞれ「限度」がある。そして、その「限度」は、自分自身が誰よりもよく知っているはずだ。過度に仕事に没頭すると、限度を超えて心身を壊す。

一方、過度な健康管理もまた、かえって心身のバランスを崩し、食べたいものを我慢しすぎてはストレスが溜まる。結局は、心身を壊す。

何事もほどほどに、「できないことはやらない」「やりたいことはする」の精神である。自分の心身を守り、休養したい時には休養を優先する。そして、欲求を適度に満足させる。

どんな状況下にあれ、この心構えを忘れないことが、人生を楽しく充実させる秘訣だ。

***

以上、『言志四録』の中から、ほんの一部の言葉を紹介した。人生は、どんな場合にも、明るく楽しいものであったほうがよい。そのためには「自信を持つこと」と「無理をしないこと」が、肝要である。

その心の余裕が、周りの人々への思いやりにもつながり、世の中全体が、楽しいものとなる。一斎は、そう語っている。

 

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