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これだけ知っておけば大丈夫! 日本海軍艦艇10の基本

2015年07月17日 公開
2023年02月22日 更新

戸高一成(呉市海事歴史科学館〔大和ミュージアム〕館長)

「戦艦」と「軍艦」の違いは?

近年、関心が高まり続けている日本海軍の艦艇。しかし、意外と見落としがちなポイントもあるのでは? 例えば、「軍艦」と「戦艦」の違いは? 「大和」「武蔵」などの名前はどう決まる? ここでは、太平洋戦争期の日本海軍艦艇を知るための「10の基礎知識」をQ&A形式で紹介しよう。

戦艦長門
戦艦長門

 

「軍艦」「艦艇」「艦船」は、同じ意味?

 海軍の「軍艦」と「艦艇」は同じ意味だと思われがちですが、実はそうではありません。

 日本海軍所属の艦は、そのすべてが「艦艇類別標準」に沿って分類されていました。類別標準とは、明治31年(1898)に制定された法令です(当初の名称は「軍艦及水雷艇類別標準」)。ここでは、最後の変更となった昭和19年(1944)以降のものを紹介しましょう。これを見ると、当時の日本海軍にどんな種類の艦艇があったかが、一目瞭然です(※別表)。

 軍艦とは戦艦や巡洋艦など主要な艦艇のみ指す呼称でした。「海軍所属の艦=軍艦」と思われる方も少なくないでしょうが、駆逐艦や潜水艦は軍艦とは呼びません。

 実はこれらは、それぞれ4隻を基準に隊を編成し、これで軍艦1隻の格でした。ですから、戦艦の艦長と駆逐艦4隻から成る駆逐隊の司令が同格だったのです。

 海軍が主要艦艇のみを軍艦に分類した大きな理由は、軍艦の艦首に菊の御紋章を付けるという慣習にあります。駆逐艦や潜水艦は極めて消耗が激しく、それらに菊の御紋章をつけて簡単に沈まれては、具合が悪かったのでしょう。

 一方、「艦船」という場合には、民間の船舶も含みます。つまり、「艦船」は艦艇と船舶を指し、「艦艇」の中に「軍艦」が含まれる、という順番です。

 

各艦艇の役割は?

 日本海軍の艦艇の役割は、大きく2つに分けられます。「戦闘する艦」と、それを「支援する艦」です。

 昔の帆船時代の主力艦は、戦列艦(line of battle ship)と言いました。戦艦の名前は、ここから始まりました。トラファルガー海戦で知られるイギリス海軍の英雄・ネルソン提督が活躍した時代(18世紀)もそうです。

 しかし時代が下り、戦術や技術が発達すると、状況は変化しました。まず軍艦の中でも小型で高速の艦が巡洋艦に区分されます。偵察や捜索など、艦隊の耳目手足の役割を担うとともに、時には海上戦闘の主力としても活躍しました。

 また、19世紀後半に魚雷が発明されます。魚雷は戦艦に甚大な被害をもたらし、雷撃を行なう小型の水雷艇は戦艦の脅威となりました。そこで水雷艇から戦艦を守るべく生み出されたのが、速力と運動性に特化した駆逐艦です。駆逐艦は英語で「 destoroyer(デストロイヤー)」。デストロイ(破壊)の対象は水雷艇なのです。そして駆逐艦に見つかりにくいよう、海中に潜った水雷艇が潜水艦でした。

 日本海軍の連合艦隊に戦艦、巡洋艦、駆逐艦、水雷艇、潜水艦までが揃ったのは、20世紀初めの日露戦争の頃でした。これらは大砲で戦う戦艦、巡洋艦の砲戦部隊と、魚雷で戦う駆逐艦や潜水艦など雷撃部隊の2つのグループに分けることができます。

 なお、当時の巡洋艦には若干の防御を施した防護巡洋艦(protected cruiser〈プロテクテッド・クルーザー〉)や、より防御力の高い装甲巡洋艦(armored cruiser〈アーマード・クルーザー〉)がありました。また、後に戦艦よりもやや防御力が劣るものの、高速の巡洋戦艦も生まれます。そして第1次世界大戦後に、航空機を搭載する航空母艦(空母)や水上機母艦が登場するのです。

 一方、海軍にとっては、「戦闘する艦」の戦闘能力を万全の状態で維持することも重大な課題でした。そこで求められたのが、「支援する艦」なのです。

 艦隊にはタンカーや補給艦、応急処置を施す工作艦が必要でしたし、軍港ではクレーン船や牽引する曳船が欠かせません。海軍の艦艇というと前線で華々しく戦う姿ばかりを想像しがちですが、こうした支援艦を含めて海軍の艦隊だということを忘れてはならないでしょう。

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著者紹介

戸高一成(とだか・かずしげ)

呉市海事歴史科学館館長

1948年、宮崎県生まれ。多摩美術大学卒。財団法人史料調査会理事、厚生労働省所管「昭和館」図書情報部長などを歴任し、2005年より現職。海軍史研究家。著書に、『海戦からみた日清戦争』(角川書店)ほか多数。

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