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西郷隆盛、坂本龍馬も愛読…『言志四録』が教える“不安のしずめ方”

2021年01月01日 公開
2022年12月07日 更新

長尾剛(作家)

 

一時の利害に拘りて、久遠の利害を察せず。【言志録180】

今、自分が懸命にやりたいと思えることがあるならば、周りにどう言われようと、今はカネにならないことだろうと、それに打ち込むのが正しい。そもそも「物事の価値」などというものは、変わるものである。

今の自分の行為を、周りに「無駄だ」と言われたとしても、そんな評価は絶対のものではない。将来には大きな価値となるかも知れない。そう信じられれば、懸命に何かに打ち込む今の自分を、堂々と肯定できる。

 

処し難きのことに遇わば、妄動することを得ざれ。【言志録182】

人生は、必ず何度かのトラブルに、ぶつかるものである。そんな場合、解決策がすぐに浮かばない時ほど、人は慌てふためき、焦る。

その挙げ句に、無理に解決しようと、当座凌ぎや、ずれた行動に走って、事をかえって煩雑にし、トラブルをますます大きくしてしまう。愚かな話である。

そんな場合は焦るより、まずは、じっと事の推移を見守るべきである。何もしないというわけではない。ひたすら現実的な解決策が見えてくるまで、事を観察し、熟考するのだ。そうすれば、本当の解決のチャンスが、きっと目の前に現れる。その時にこそ、初めて動けばよい。

チャンスをつかむコツとは、とにかく焦らないことである。

 

枕上(ちんじょう)に於て、ほぼ商量すること 一半にして思いを齎(もたら)して寝ね、翌旦の清明なる時に続きてこれを思惟すれば、すなわち必ず恍然として一条の路を見る。【後録45】

悩み事をくよくよ嘆いても仕方がない。解決策を思いつくにはコツがある。

夜、独り静かに布団に入ったら、その悩み事の始まりを省みる。「何がいけなかったのだろう」「そもそも何がきっかけだったっけ」と。そうやって、そこまで省みたら、あとはもう眠ってしまう。

つまりは、悩み事の半分だけを頭で整理して、あとは睡眠で心と頭を癒すのだ。すると、翌日の朝、癒された心と頭はずっと冴え渡って「だったら、こうしてみればよいかも知れない」と、おぼろげながらも一筋の道が見えてくるものである。

悩み事は、すぐに解決しようとするよりも、心身のリフレッシュをあいだに挟んで、段階を踏んで解決を試みるほうが、うまく行く。

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