2026年09月02日 公開

歴史を学ぶことは、社会人として、日本人として身につけておきたい「教養」です。本稿は、社会科講師としてオンライン授業を数多く手掛けてきた伊藤賀一氏が「大人のための日本史講義」を開講。天下統一を成し遂げた豊臣秀吉について、「太閤検地」と「朝鮮出兵」をキーワードとして解説します。
※本稿は、伊藤賀一著『史上最強にわかりやすくて面白い ぶっ続け日本史講義10時間』(WORDS/フォレスト出版)より一部抜粋・編集したものです。
じゃあ、続きをやりますね。
ついに近世に入ってまいりました。原始・古代・中世・近世ということですね。近世は「安土桃山時代」と「江戸時代」に分かれます。江戸時代のペリー来航の1日前までが、近世だと思ってください。幕末は除きます。
まず、安土桃山時代の「安土」というのが何かというと、織田信長の安土城のことなんです。「桃山」というのは豊臣秀吉の伏見城のこと。伏見城は取り壊されましたが、その城があった場所のことを「桃山」といいます。
ちなみになんで桃山というかといえば、桃の木が植えられてたからです。いまは明治天皇がその近くに眠ってらっしゃいます。「桃山御陵」というお墓があります。
ようするに安土桃山時代というのは「織豊政権」のことです。織田信長と豊臣秀吉の時代を指すわけです。
ただ、織田信長は天下を統一したわけではないですね。天下統一に指をかけた、という感じ。指をかけたところで、本能寺の変で足元をすくわれる。なので信長がやったのは「中部地方と近畿の大半を統一した」ということです。日本最大の激戦区ですね。
越後の上杉や越前の朝倉や甲斐・信濃の武田、それから駿河・遠江の今川や美濃の斎藤などがいる、めっちゃくちゃの激戦区。そんな中部地方を信長は獲ったわけです。
さらに、室町幕府の将軍を追放する形で、近畿地方もだいたい獲ります。しかし、根来・雑賀衆のいた和歌山県だけは獲れてなかったんですね。
じゃあ誰が和歌山県を獲ったかというと、それが豊臣秀吉です。
そのあと四国の長宗我部を破り、中国地方の毛利も従わせています。それから九州の島津も破り、関東の北条を屈服させます。さらにそのころ東北の伊達と最上が謝りに来たという、そういう状態です。これで天下統一になります。
豊臣秀吉は「関白」になります。関白というのは、天皇の補佐役として代わりに政治する役職のこと。めっちゃ強いポジションです。藤原摂関家の「五摂家」のトップの、近衛家の養子に入って、関白になる。そんなやり方をしたんですね。
そのあと天皇から名前をもらって、豊臣というスーパーブランドの氏をつけてもらい、豊臣羽柴秀吉となります。元関白のことを「太閤」というふうにいうので、「太閤秀吉」なんて呼ばれ方をするわけです。
豊臣秀吉に関して大事なのは大きく2つです。
みなさんよく「太閤検地」と「刀狩」が大事だ、と勘違いされるんですが。これらは2つで1つみたいなもんです。実態としては「太閤検地の中に刀狩がある」くらいのものだからです。
なので、大事なのは「太閤検地」と「朝鮮出兵」。この2つです。
まずは太閤検地。これが何かといえば、いってみれば全国画一の「秀吉ルール」を広めるためのものです。
全国に戦国大名がいました。室町幕府も朝廷も大寺社もありました。なんやかんや、いろんな勢力があるわけでしょ。それらは全部、徴税の基準がバラバラだったんですよ。「徴税をして国防をする」っていうのが、国の最低限の仕事だったんです。だから「徴税の仕方」というのはめっちゃくちゃ大事なポイントになるわけですね。
もし徴税の仕方がバラバラだったら、全国各地で米の量枡の大きさすら違ったわけです。それをちゃんと「京枡(きょうます)」という、京都周辺で使っていた枡の大きさに統一した。また、長さを測って、田んぼや畑を評価する基準もすべて一緒にします。そういう秀吉ルールを全国一律で広める。これが太閤検地なんです。
でもそうすると、利権を失うということで、それに反対する人間がいっぱいいるわけです。そういった人たちに一揆を起こされると困る。だから「刀狩令」を出しただけなんですね。
結局、刀狩というのは、太閤検地の過程での話。太閤検地の下にあるものであって、横に並ぶものではないんですよね。まずそれが、国内的には重要なひとつの出来事です。
それから国外的には、日本国として朝鮮を侵略します。これで、ものすごいナショナリズムが高まるんですよ。蒙古襲来のときも「日本国民だな」っていう意識は芽生えましたが、それはたぶん支配者層だけだと思います。でも、朝鮮侵略のときは違うんですよね。
2回合わせると、30万人近くの人間が出兵しました。しかも、各地の大名が動員をかけるわけです。「太閤秀吉様が言ってるから、徴兵して戦争に行くんだ」ということです。
海を実際に渡る人間もいれば、渡らないで、いまの佐賀県の名護屋っていうところに留まる場合もありました。とにかく全国民が、そういう意識を持つようになって、ナショナリズムがめちゃくちゃに巻き起こるわけですね。国家意識が最高潮になります。
では、なぜ秀吉は朝鮮侵略をしようとしたのか。これは大人っぽいビジネスの話とまったく一緒です。
ユニクロさんでもセブン-イレブンさんでもニトリさんでも、なんでもいいですが。たとえば、山口県の宇部で紳士服の店「小郡商事」を継ぎました。そこから「全国統一するぞ」とかって言って、どんどんどんどん店を広げていく。名前も「ユニクロ」っていう名前に変える。最初はそうやって、柳井さんがワーッと頑張って全国に広げていくわけです。
セブン-イレブンでもいいですよ。最初は、日本のイトーヨーカドーの中でやっている会社だったわけですよね。アメリカから導入したとはいえ、イトーヨーカドーの下じゃないですか。四国に1店舗もないから「四国に進出するぞ!」とか言って。最初の頃は九州にもない、沖縄にもない。「セブン-イレブン? 何それ?」みたいな感じだったわけですよね。それで「行け行け!」って、ワーッと全国展開を進めていった。
最初はそれで楽しいんですよ。元からいた人間たちも出世していって、各ブロックのエリア長になって「カリスマ店長だ」とかなんとかって言われていれば、それでいいわけですから。
ところが、全国制覇しちゃうと「ん?」という話になります。それ以上の夢がなくなってしまう。それはカレーのココイチもそうだし、ラーメンの一風堂もそうですよ。全国統一しちゃうと、夢がなくなるんです。次の夢を見つけないといけない。
だから海外に進出するわけです。
秀吉の朝鮮侵略もこれと同じです。
つまり「御恩と奉公」の、「テイクアンドギブ」の関係で成り立っているのが武家社会なわけです。
いま僕は、わざと「逆」で言ってるんですよ、「ギブアンドテイク」じゃないんですよ。「テイクアンドギブ」です。テイクするからギブするわけであって、御恩と奉公というのは、まず「御恩」なんですよ。
聞いたことないでしょ?「奉公と御恩」なんて言葉。御恩と奉公、つまり「テイクさせてもらったから、命懸けで働きます」っていうものなんです。なので、まずは家臣にテイクさせてやるような、何かがないといけないわけです。それが武家の主従関係なので。御恩がなかったら、誰も頑張れません。
豊臣秀吉と全国の大名の主従関係も、まずはテイクから始まります。でももう天下統一しちゃったので、何もないわけです。だからこそ朝鮮半島を経て、中国大陸の明の皇帝を打ち倒すことを目標にする。「半島から大陸に世界は広がる」みたいなビジョナリーなことを言うわけですよ。
そういうことをやらないと、武家社会の主従関係を維持できない。なので朝鮮に「行かざるを得なかった」ということだったんですね。
陸軍としては自信があったんですけどね。豊臣秀吉って、当時は世界最強の陸軍大将でした。陸だけでいえば、たぶん当時は日本が世界一だったから。兵の動員力や、火縄銃がいっぱいあったことを考えると、おそらく日本がいちばんです。和泉国の堺や近江国の国友が、自ら鉄砲を生産できましたからね。そして大坂城は世界最大。陸軍国としてはめちゃくちゃ強かったんですよ。
ところが、しんどいっすね。日本は海洋国家なので、外に出ていくときに必ず海を渡らないといけないわけですよ。
どうせ海を渡るわけなので、いきなり中国を攻めてもよかったんです。実際、秀吉の真の目的は「中国を攻めよう」ということでした。でもそこで「補給はどうするんですか?」という話になります。兵を送り込んだあと「水は?武器は?馬は?食糧は?」という話になってくるんですよ。
なので、朝鮮半島だったら玄界灘を渡ればいいだけだから、そこを兵站として使おう、と考えた。それでのび太の日本は朝鮮半島に「従え」って言ったんですが、当然、スネ夫(=朝鮮)に断られました。なので、まずは朝鮮侵略になっちゃった、というだけです。
ようは、通り道を確保するためだけに朝鮮を攻めたんですね。本当の目標は、朝鮮自体ではなく、ジャイアンたる中国の北京だったんです。
いやあ、それでも、玄界灘を渡るだけでもダメなんですよ。朝鮮には名将李舜臣(りしゅんしん)がいらっしゃいますから。ダメですよ、朝鮮水軍はやっぱり強いです。亀甲船という凶器みたいな船を使って、兵站をカットしてくるわけですからね。
あと、中国も朝鮮を助けてくれますからね。朝鮮を突破されたら、中国の明に突っ込んでくるわけだから。明も援軍を送るわけです。日本は朝鮮と明の両方と戦うことになってしまったんです。
これで負けちゃいました。結果的には「諦めて帰る」という形になりました。
これで豊臣政権は大ダメージを喰らうわけです。海外進出に失敗したわけですよね。しかも、その最中にカリスマであるトップの秀吉が死んでしまいました。残されたのは、幼い秀頼くんということになっちゃった。
これではしんどいですね。このダメージが尾を引き、豊臣家は滅亡してしまいます。
更新:09月02日 00:05