いよいよ水中特攻兵器を試作するということが決定した頃にですね、黒木(博司・機51)大尉は回天の試作が決定し、呉工廠機密区画で設計試作が進められた期間に、黒木(博司・機51)少佐は、当時大尉でありますが、19年の5月に急務所見というものを血書いたしまして、これは艦政本部におる島田東助技術少佐(造兵)も得まして、侍従武官の今井(秋次郎・兵54)中佐とか高松宮(宣仁親王・兵52)殿下にも是非見て頂きたいということで、急務所見というものを出しております。
それを仔細に読んでみますと、血書で約3000字に及ぶ烈々たる所見でありまして、その中にとにかく死の戦法に徹すべきことを主題として書いております。
そしてまず第一に、航空機において即刻決定しろと。
第二に人間魚雷を完成採用すべきと。
更に空輸挺身隊を徹底的に活用しろ、というようなことを、所見に書いておるわけであります。
これは19年の10月に航空特攻が出現する五カ月も前にすでに黒木(博司・機51)大尉は血書をしてそういう具申を出していたわけであります。
だいたいその頃ですね、すでに航空関係でもご承知のように、当時、(空母) 千代田の艦長をしておられました城英一郎(兵47)大佐は、19年の6月末に、もはや尋常一様の手段では敵空母を倒し得ない、体当たり攻撃をする特別攻撃隊を編成し、その指揮官に任命されたい、ということを進言しておるんです。
そして特攻航空部隊の計画を小澤治三郎(兵37)中将と大西瀧治郎(兵40)中将に説明をしておるのであります。
今一つ19年6月15日には岡村基春(兵50)大佐が福留(繁・兵40)中将宛てに、尋常一様の戦闘方法では現下の航空兵力を活かす道はない。もはや特攻あるのみ。というふうに進言するのです。
このように神風が出現する、すでに半年以上前から、特攻というものが飛行機でも、水中特攻でも盛んに動き出したということは出ているのです。
以上のように19年の初夏までに水中特攻、航空特攻の上申が続き、19年7月21日に先ほど申し上げました「大海指」が出たわけであります。
やがて水雷学校長の大森仙太郎(兵41)中将が海軍特攻の実行委員長に任命されまして、9月には海軍特攻部が発足いたします。
こういうふうにして、水中特攻関係は完全に動き出したのでありますが、その水中特攻兵器は震洋という④(まるよん)兵器であります。それから⑥(まるろく)が回天、⑨(まるきゆう)が震海、③(まるさん)が海龍。こういうのが次々と研究されたのであります。
震海につきましては、前に潜水艦戦の失敗のときに私その裏話を申し上げまして、黒島(亀人・兵44)第二部長が私を国賊だというふうに決め付けられた経緯の兵器が、震海です。
私はこの兵器は役に立たんと言うて反対したときに、黒島(亀人・兵44)少将に叱られたようなわけであります。
次は航空特攻の先鞭はご承知と思いますが、七六二空(第七六二海軍航空隊)の大田光男(特務)少尉が着想して、小川太一郎工学博士が設計しました人間爆弾(桜花)であります。
これはマルダイ兵器と呼ばれておりますが、19年の8月16日、海軍航空技術廠で製造が開始されました。先に特攻を上申しました、岡村基春(兵50)大佐がこのマルダイ部隊の編成を命じられています。
このように特攻というのは、もう神風が出る相当前から盛んに動いておったということは事実でございます。
それからいよいよ特攻が本当に具体的に動き出した時期はですね、(前述の)「大海指」第四三一号に基づく奇襲作戦、すなわち特攻作戦が動きはじめたのは8月末であります。
まだ神風が出る2カ月前であります。
このときにですね、第一次特別決死隊の司令官である長井満(兵45)少将が軍令部に呼ばれまして、回天の一次攻撃に関する要請が内示されました。もちろん神風の出撃よりもずっと前であります。
そして出撃予定は10月末にしよう。そして、回天基数は12ないし16基。それから出撃搭乗員は全員士官にしようというようなことが出ております。
一方、軍令部のほうでは作戦課の航空参謀である、源田実(兵52)中佐が10月13日、次の電文を起草して、第一部長中澤佑(兵43)少将の承認を得て発信をしております。まだ神風の出る少なくとも20日、半月ぐらい前であります。
「神風隊攻撃の発表は全軍の士気高揚、ならびに国民戦意の振作に至大の影響を関係あるところ、各隊好機実施のつど、尽忠の至誠にむくい、攻撃隊(敷島隊・朝日隊等)とも併せ、適当の時期に発表のことに取り計らいたきところ、至急承知いたしたい」
こういう電報を打っておるわけです。
したがって、大本営が特攻部隊は地方の実施部隊がやったんで、大本営は知らなかったというようなことを言うこと自体が極めておかしいのでありまして、だから中澤(佑・兵43)さんとか源田(実・兵52)さんなんかが、もし頰被りしとったとなれば、これはまことにけしからん話だと私は考えておるのでございます。
更新:11月24日 00:05