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朝ドラ『ばけばけ』小泉八雲・セツの関係性を深化させた「大磐石のアシスト」

2026年02月03日 公開

鷹橋忍(作家)

ラフカディオ・ハーン
Wikimedia Commons/Lafcadio Hearn in 1889

朝ドラ『ばけばけ』のヒロインのモデル・小泉セツとラフカディオ・ハーン(小泉八雲)は、明治24年(1891)6月、現在の小泉八雲旧居にて暮らすようになる。そんな二人の関係性をさらに深める出来事が起こる。それは、ハーンとその親友「大磐石」こと西田千太郎が旅行中のことで、裏には千太郎の見事なアシストがあった。

※本稿は、鷹橋忍著『小泉セツと夫・八雲』(PHP研究所)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

語り部セツ

ハーンの親友・西田千太郎の日記、明治24年(1891)6月22日と、7月28日の項では、セツをハーンの「妾」と称しており、この頃のセツは、ハーンの「内縁の妻」のような立場であったと見られている(高瀬彰典『小泉八雲の世界 ハーン文学と日本女性』)。セツとハーンの正式な結婚は、明治29年(1896)2月まで待たなければならない。

正式な結婚には至っていなくとも、家族と呼べるものを持たないハーンは、セツの多くの親族を扶養することを、喜んで引き受けた。

ハーンは100円の給料のうち15円を、セツの実母や養父母に渡したとされる。

それほどまでに、セツはハーンにとってかけがえのない存在となっていた。

セツとハーンは幸せな家庭生活を送っていくことになるが、二人の曾孫・小泉凡によれば、それは二人が、夫と妻という関係にくわえ、「語り部」と「再話者」という立場で支え合う関係が築かれていたからだという(小泉凡『怪談四代記 八雲のいたずら』)。

再話とは、もととなる話を独自の解釈や文飾で再構築する創作方法で、ハーンはこれを得意とした。名作『怪談』の「耳なし芳一」や「雪女」などが、それにあたる。

セツとハーンの長男・一雄によれば、セツは結婚した翌日から、ハーンに「お伽噺でも、怪談でも、伝説でも、何でもよろしい。面白い話をしてください」と頼まれたという(根岸磐井『出雲における小泉八雲 再改訂増補第10版』所収 小泉一雄「亡き母を語る 父八雲の協力者として」)。

セツがハーンに最初に語った物語は、「鳥取の布団」だった。鳥取出身のセツの最初の夫・前田為二から聴いた怪談である(『日本の面影』の中の「日本海に沿って」では、ハーンが宿の女中から聴いたことになっているが、セツが語ったとする説が有力とされる)。

幼い頃から物語が好きで、周囲の人々から物語を聴いてきたセツは、語り部としての才能に恵まれていた。

「鳥取の布団」は、鳥取のある宿屋で、夜中に「兄さん寒かろ」「お前寒かろ」と言って泣く布団の怪談で、セツの語りを聴いたハーンは、セツが作家活動の助手となり得ることに気付き、「あなたは私の手伝い出来る仁です」と、セツの手を握り、狂喜している。ハーンの喜びようは、セツを甚だしく驚かせるほどだった。

以後、セツはハーンの作家活動を支える語り部として、彼が喜びそうな話を探し出しては、それを伝えることに喜びを感じ、同時にこれは自分の使命であるという覚悟を持った。

セツは昔話をする際、最初に話の大筋を伝えた。ハーンは面白いと思うと、書き留めた。それから、詳しく、幾度も話させる。

セツが本を見ながら話そうとすると、ハーンは、「本を見る、いけません。ただあなたの話、あなたの言葉、あなたの考えでなければいけません」と言うので、話を自分の物にしてしまわなければいけなかった。

そのため、セツはとうとう夢にまで見るようになった。

怪談を語って聞かせる際には、明かりを暗くした部屋に、二人で閉じ籠もった。

ハーンはセツの怪談を、声を殺して、いかにも恐ろしそうに聴くので、語り部のセツも自然と熱が入ったようだ。

幽霊屋敷のような部屋で、ハーンはセツの話にインスピレーションを得ると、顔色が変わり、眼が鋭く恐ろしくなるという。

こうしてセツは語り部としても、ハーンの最期の日まで、寄り添い続けることになる。

 

ハーンとの旅

明治24年(1891)7月26日、ハーンは親友の西田千太郎とともに、夏休みの旅行に出発し、出雲大社の西方にある杵築の稲佐の浜に滞在した。セツは、何らかの家庭の都合があったようで、同行していない。

この時、西田の目にはハーンは元気がなく、寂しそうに見えた。これはセツに会いたいのだろうと考えた西田は、ハーンに内緒で、セツに「来てくれ」という手紙を送った。

手紙を受け取ったセツは、2日後の7月28日に、ハーンと西田が宿泊する、老舗の一流旅館「いなばや」の別館である養神館を訪れている。だが、ハーンと西田は外出していた。

やがてハーンが戻り、階段を上がってくる。セツは階上から「アナタ」と呼びかけた。

セツが来ているとは夢にも思わなかったハーンは、セツの魂が抜け出てここに来たのかのように思え、「あの時のセツは女神だった」と一雄に語っている(小泉一雄「亡き母を語る 父八雲の協力者として」)。

いなばやはハーンの常宿で、滞在中、主にハーンの世話をしたのはいなばやの養女タニと女中の米井だった。

この時もタニが養神館に赴き、ハーンの世話をしていたが、ある日、タニは衝撃的な光景を目の当たりにしている。

セツが乗った人力車が到着すると、西田が、「ヘルンさんがどうするか、見ているといい」と言ったので、タニは物陰に隠れて、様子を窺った。

すると、ハーンは人力車に駆け寄り、セツを抱いて車から降ろしたのだった。その時、ハーンはセツに、なにやら可愛い言葉を囁いたようだったという。ハーンの行動は、当時の日本人にはとても考えられず、タニは晩年まで忘れられなかった(梶谷泰之『へるん先生生活記』)。

二人の睦まじい様子が、目に浮かぶようである。

杵築に滞在中、セツとハーンは西田とともに、出雲大社を訪れている。二人は、「出雲大社で結婚式を挙げた」とする説もあるので、この時、結婚のための参拝があった可能性もある(工藤美代子『神々の国 ラフカディオ・ハーンの生涯【日本編】』)。

いずれにせよ、セツを「ヘルン氏ノ妾」と称していた西田の日記は、以後、「セツ氏」と表記されるようになった。

 

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