歴史街道 » 本誌関連記事 » 天下で恐ろしい人物、それは横井小楠と西郷南洲だ~勝海舟の人生訓

天下で恐ろしい人物、それは横井小楠と西郷南洲だ~勝海舟の人生訓

2018年10月21日 公開
2022年02月04日 更新

童門冬ニ(作家)

西郷は議論を超越する大人物

西郷隆盛
西郷隆盛
 

そこへいくと、勝が最も感銘した人物のもう一人である西郷隆盛は、小楠とは違う。西郷も、よく他人から命を狙われた。狙った中に人見寧(後の茨城県知事)がいる。理由はよく分からないが、人見は西郷を殺そうと思った。そして、勝の所に来て、
「あなたは西郷さんと親しいらしいから、紹介状を書いてくれ」
と言った。一目見て、勝は、(この男は、西郷を殺す気だな)と悟った。
そこで、紹介状を書いたが、その中に、
「この男は、あなたを殺すはずだ。しかし会ってやってくれ」
と書いた。紹介状をもって、人見は鹿児島に行った。玄関番である桐野利秋に面会した。

西郷に見せる前に、桐野は人見のもってきた勝の紹介状を見た。そして、この男は西郷さんを刺すつもりだ、という字句を目にして驚いた。すぐ西郷の所に行き、
「勝さんが、先生を殺したいという男を紹介してきました。勝さんともあろう人が、驚いたことです。どうしますか?」
ときいた。西郷は笑って、
「せっかくの勝先生のご紹介だ。会おう」
と答えた。人見は、西郷の前に通された。西郷は、
「私に何か用か?」
ときいた。人見は、殺気を身体から発散させながら、
「天下の大勢について、先生のご高見を伺いに参りました」
と言った。人見は東北の男である。西郷は人見の前でごろりと横になり、
「君、私は天下の大勢などというむずかしいことは知らないよ。まあ、お聞きなさい。この間、私は大隅の方へ旅行をした。その途中で、腹が減ってたまらぬから、十六文で芋を買って食ったよ。たかが十六文で腹を養うようなこの西郷に、どうして天下の形勢などが分かろうか、なあ、君、分かろうはずがないじゃないか」
と言って大きく笑った。人見は呑まれてしまった。そして狼狽して江戸に戻ってきた。
「西郷さんは実に大豪傑だ。とてもかなわない」
と、勝に会って報告した。

勝は、西郷についてこう言っている。

「知識だとか、外国の事情だとかは、おれの方が話して聞かせるくらい詳しい。しかし、その胆の大きいことは、実に絶倫で、議論も何も超えるような大きさをもっていたよ」

勝の弟子だった坂本龍馬も、西郷に会った初印象をこう語っている。

「西郷さんは、鐘と同じだ。大きく叩けば大きく響き、小さく叩けば小さく響く」

※本記事は、童門冬二著『勝海舟の人生訓』より一部を抜粋編集したものです。

歴史街道 購入

2024年12月号

歴史街道 2024年12月号

発売日:2024年11月06日
価格(税込):840円

関連記事

編集部のおすすめ

行ないは自分が、批評は他人がする―勝海舟の人生訓

童門冬ニ(作家)

忠誠心に個人的な感情を交えるな~勝海舟の人生訓

童門冬ニ(作家)

職責を超える仕事もやってみろ~勝海舟の人生訓

童門冬ニ(作家)