2026年08月28日 公開

「学校で古代史を習ったが、よく憶えていない」――そんな人は多いのではないでしょうか。しかし歴史を学ぶことは、現代を理解するうえでのヒントにもなり得るもの。社会人として、日本人として持っておくべき「教養」です。本稿は、社会科講師としてオンライン授業を数多く手掛けてきた伊藤賀一氏が「大人のための日本史講義」を開講。古代において日本という国がどのようなポジションに置かれていたか解説します。
※本稿は、伊藤賀一著『史上最強にわかりやすくて面白い ぶっ続け日本史講義10時間』(WORDS/フォレスト出版)より一部抜粋・編集したものです。
古代の東アジア世界のことは『ドラえもん』みたいなもんだと思ってください。
すごく簡単な図を書きますね。
まずは中国。「中国」って書くぐらいだから、自分たちを世界の中心だと思っていますね。中国王朝があります。それから朝鮮。それから沿海州、または中国の東北部。これは同じぐらいのくくりだと思っておいてください。そして、日本があります。
この4人の登場人物で展開されるアニメです。
中国はこの中で王朝交代をしています。たとえば隋・唐・宋・元・明・清と変わっていくわけです。朝鮮も新羅・高麗・朝鮮などというふうに王朝交代していく。この中国東北部の世界も、高句麗がいて渤海がいて、その後も金というのが出てきて...というように、いろいろと変わっていきます。日本だけ、ずっと王朝が変わりません。
『ドラえもん』でいうと、中国はジャイアンになります。いちばん強い。
朝鮮は、たとえるならスネ夫です。いつもコンビを組んでいて、中国とは主従関係がある。だから中国の皇帝が、朝鮮の王の任命をしているわけです。
で、そういう関係を「冊封」という言葉で表します。「冊封されている」などというふうに言うわけ。中国皇帝により朝鮮王は任命されているという、冊封関係にあるわけですね。
5世紀までは、日本王も中国の皇帝によって任命されていました。「倭の五王」と呼ばれるときくらいまではそうだった。ところが7世紀の遣隋使・遣唐使以降は、そうじゃなくなります。途中でちょっとだけ変わってくるんですけど、基本はそのままです。日本は独立するんですね。
中国がジャイアンでしょ、朝鮮がスネ夫でしょ、日本はのび太なんです。ただ、いちおう独立してはいるわけです。ジャイアンとのび太って、別に親分子分じゃないですよね。基本的には仲良くないです。でも仲いいときもありますよね。映画のときだけ仲いいじゃないですか。わかんないけど、そういった感じです。
朝鮮と日本がライバル関係なんですよね。
スネ夫って、自分はジャイアンよりは下だとは思っているんだけど、のび太に対しては「のび太のくせに」と思っているわけ。それと同じですね。位置関係からいっても、中国の優れた制度や文化がいち早く入ってくるから、朝鮮のほうが先進国でした。なんだけど、のび太にもプライドがあるわけです。「自分はジャイアンの子分じゃない」という、プライドがある。スネ夫はそれが気に入らないんですね。だから朝鮮も日本も、お互いのことを「何だよ」と思っているわけです。
じゃあ、それ以外の沿海州の近隣国は誰なのか? というと、しずかちゃんです。
あのアニメには、自分磨きにいそしんでいる、バイオリンの下手な女の子がいますよね。「いつも風呂入ってるやないか、お前は」って言う人がいますが、4つ目の近隣国はそんな感じです。そういう、中立的な感じだと思ってください。
ところがここも、ときどきバグるんです。しずかちゃんがたまに怒ったりする。
11世紀の「刀伊(とい)の入寇(にゅうこう)」のように、いきなり攻めてきたりしたこともあります。
当時の東アジアというのは、こういう世界です。そして当時の日本が考えている「世界」というのは、これだけです。インドとかギリシャとかローマとか、考えたこともないんです。一度も考えたことがない。西のどのあたりにあるんだろう? くらいに思ってます。
日本はこの地図を見てもわかるように、島国なんですよね。だから、のんきなんですよ。島国って地政学的にめっちゃのんきです。「海を隔てているから、それがシールドになっている」と完全に思っているんですね。油断しまくっている。「あんまり油断してると、エーゲ海のクレタ島みたいにやられるで」と思うんですけども。とにかく油断しがちで、それはもう、都市の様子を見たらすぐにわかります。
たとえばアテネとかって、城壁がありますよね。あと『キングダム』の漫画を見ようが『三国志』を見ようが、中国の町には絶対に城壁があるじゃないですか。イギリスも同じです。イギリスはスコットランドだの、イングランドだの、ウェールズだのいろいろあって、中で揉めまくっている。だからそれぞれ城壁があって、城塞都市になっていますよね。
一方で日本には、首都にすら城壁がありません。
藤原京にもない。次の平城京もそう。長岡京もないし、平安京にもありません。なんか飾りだけ。羅城門のところだけですよね。ちゃんとした羅城がないんですよね。
で、豊臣秀吉のときだけ「御土居(おどい)」っていうのがありました。その当時は朝鮮との関係が微妙だったり、スペインのフェリペ2世との関係もあったりするからですね。城塞都市みたいにしないといけないというので「御土居」という土の堤防を造りました。で、そこにいくつか出入口を開けていた。それはいまだに「鞍馬口」とか「丹波口」みたいに、駅の名前として残っていますよ。でも、基本的に日本の都市には城壁がありません。
地政学的にいうと、ランドパワーの国とシーパワーの国では、ぜんぜんテンションが違うんです。
ランドパワーの国、ようは陸中心の国というのは、すっごい好戦的。つねに「隣に進出してやろうか」っていうテンションなんですね。国防にしても「隣から攻められるんじゃないか」っていう緊張感がすっごいあるんですよ。たとえばロシアとか中国とか、ヨーロッパの大陸諸国、ドイツとかですね。
それに比べてシーパワーの国って、ほんとにのんきです。日本なんか、モロにそうですけどね。世界がいちばんヤバいときというのは、ランドパワーの国である彼らが「海に目を向けたとき」です。そう、中国ね。中国が海、つまり台湾に目を向けているのはヤバいです。「一帯一路」構想とか言い出したし。「一路」っていったって、アフリカとかまで含めちゃうわけでしょ。そんななかで「台湾のシーレーン(海上交通路)があるだろう」って言ってるわけであって。これはほんまにヤバいで、っていう感じなんです。
でも日本は、島国だからすっとぼけてます。「まあ大丈夫やろ」みたいな絵を描いている。その「すっとぼけな感じ」が、島国のものの見方ですね。
更新:08月28日 00:05