――では、三善康信、岡崎義実がランキングに入ってくるのか。読者アンケートの結果を発表していきたいと思います。
秋山 第2位が梶原景時。ほぉ~。
――中村獅童さんの演技がミステリアスですよね。
秋山 「梶原景時」が2位に入っているというのが、時代だなっていう印象を受けました。割とこれまでだと嫌われている人という印象だったですから。
――読者のコメントでも、「悪役として書かれることが多いが別の見方もあると思う」「彼が一番、源家を思っていたんじゃないか」という声もあって、見方が変わってきているということを感じました。
秋山 実際、そんなに嫌われるような人じゃないはずです。ようやく正しい評価になってきたという感想をもちました。
――そして第1位は畠山重忠でした。
谷津 僕のイチオシは三善康信にしたんですが、最後まで悩んだもう一人が「畠山重忠」です。というのも、僕は畠山重忠について思い入れがあるんです。
僕は東京の青梅市出身で、そこには御嶽神社があります。この神社に、畠山重忠公が納めたと言われている「赤絲威鎧(あかいとおどしよろい)」という平安時代の鎧形式を残している国宝があるんです。しかも御嶽神社には畠山重忠公の像があって、子どもの頃、林間学校とかに行くと、「あの武将、誰?」というふうに話題になる。そしてその都度、「あれは畠山重忠という偉い人なんだよ」って刷り込まれるんです。だから畠山重忠は地元の人じゃないんですけど、「おらが町の偉人」という感じで、青梅市民に愛されているんです。
秋山 畠山重忠はかっこいいですよね。かっこよさ、大事です。最初に三浦党と戦ったときに軍勢を率いたのが17歳のときだっていうのもあって、やっぱりかっこいいなぁって(笑) 畠山重忠さんについてはすみません、それだけです(笑)
――読者コメントも「すがすがしいところが好き」とか、そういう声が多いです。あと、かっこよさと悲劇的な最後を混ぜ合わせて、「『三国志』の関羽みたいな人じゃないか」という声もありました。大河ドラマの中川志さんもイケメンでさわやかですから、これはもうみなさん、「異論は認めない!」という感じですね。
谷津 梶原景時とは対照的に、時代が変わっても、畠山重忠ほど評価が変わらない人って珍しいなと思います。今回の大河では登場人物に新しい光の当て方をしていますが、そんな中にあっても変わらないのが畠山重忠。畠山重忠という人は、われわれ日本人の心をつかまえる「何か」があるんだと思います。
――「武士の鑑」とか、そういうイメージで見ている方が多いですね。
谷津 言い方を変えると、三谷幸喜さんですら、新しい切り口が見つけられなかった人とも言えるんですよね。
――あとは今回、選択肢の中には入れてなかったんですけれども、その他の声として、「上総広常」を挙げている方も多くいました。佐藤浩市さんの上総広常は、インパクトが強かったですからね。「おい、みんな武衛だ!」とか(笑)、広常も評価がずいぶんと変わってきた典型かもしれません。
谷津 ちなみに三善康信は……最下位? これはいかがなものでしょうか。みなさん、今から推しになっても構いませんよ。三善康信はたぶん大河ドラマの最後のほうで、もう1回活躍するシーンがあるだろうと、僕は勝手に妄想しているので、それをお楽しみに!
――ちなみに、その他に名前が挙がった人物としては「仁田忠常」「結城朝光」「千葉常胤」と、これまた多岐にわたるご意見を頂戴しました。
秋山 結城朝光は私も好きです。頼家が将軍になったときに、「忠臣は二君に仕えず。頼朝さんのときはよかったなあ」というような愚痴をこぼして梶原景時に目を付けられ、阿波局に助けてもらった人物として知られています。実は、『吾妻鏡』での登場の仕方がちょっとかわいいんです(笑)。朝光はまだ14歳の時に、挙兵した頼朝のところに母に連れていかれる。そこで、頼朝によって元服させられているんです。また、結城朝光はもともと質素な生活をしていたんですが、畠山重忠が殺された後、すごいショックを受けて、よりいっそう慎ましく暮らし始めたというエピソードもあります。友達思いというか、とても誠実な人だったんだなという印象で、そういうところが好きですね。
――こうしてみていくと、鎌倉幕府草創期には、魅力的な御家人がたくさんいますね。
秋山 そうですね。私は鎌倉時代というのは、感情表現がすごく大らかで好きなんです。時代がもう少し下っていくと武士道とかで出てきて、私を抑えて公けに生きるというような価値観が出てきて、それはそれで美しい姿ではありますが、この時代は、みんな自分のために、自分を大切に生きているので、悩める現代人は参考にしてほしいなと思います。自分を大切に、自分のために生きようよって。そういう生き方をしている人たちの命の炎(ほむら)が、内側からパァーとほとばしって燃え上がっているようなまぶしさが、鎌倉草創期の魅力だなと思うんです。
たしかに、自分に正直なだけに殺し合いもするし、陰謀も渦巻いて、言葉1つ間違えただけで揚げ足を取られるような、誰もが薄氷の上で生きているような時代です。でも、そんな時代に生きているのに、みんな無邪気で、底抜けの明るさがある。御家人たちにはそんな印象がありますね。
どの時代にも言えますけど、1つひとつの事件には表と裏がある。掘り下げていくと、巷間伝えられていることとは違う別の側面を必ずのぞかせる。鎌倉時代ももちろん、どの事件にも裏の顔があるんですが、まだ小説とか漫画、映画やドラマの中で語り尽くされていない、未開拓な魅力があります。学者じゃなくても、普通に歴史が好きという人でも、鎌倉時代を掘り下げると「大発見」みたいなものがたぶんあるので、のめりこんでいったらきっと楽しいと思います。
更新:11月22日 00:05