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「植物分類学の父」を育てた高知の大自然

2019年03月20日 公開
2023年03月23日 更新

『歴史街道』編集部

 

牧野富太郎牧野富太郎記念館展示館 中庭(写真提供:高知県)

「私は草木の精かもしれない」

その後、牧野は研究の世界に没頭し、北は北海道の利尻島、南は奄美大島まで隈なく調査していった。27歳で新種の草に「ヤマトグサ」と名付けたのを皮切りに、1,500種類以上の植物に学名を与えた。生涯研究者として活躍し続けて、78歳のときには『牧野日本植物図鑑』を完成させている。

牧野は自身のことを、「草木の精かもしれない」と述べている。植物研究のために実家の財産や妻が始めた料亭の収益を使ったという破天荒な一面もあったが、すべては真摯に植物学に向き合ったがゆえといえよう。

牧野がその生涯を閉じたのは昭和32年(1957)のことだが、その翌年には高知市五台山に高知県立牧野植物園が開園している。これは生前の牧野の意向を受けて開園されたもので、現在は約8ヘクタールの園地に、3,000種類以上の野生植物などが四季を彩る。

園内を歩けば国内外の多くの植物に出会うことができ、その多種多様さは時を忘れてしまうほどだ。

園内に建つ牧野富太郎記念館本館には、牧野の蔵書や遺品など約58,000点を収蔵する牧野文庫も併設されている。有用植物に関する世界的研究機関としても知られており、その意味でも多くの楽しみ方があるといえるだろう。

高知県では今年2月1日より、高知の自然を生かした体験型の観光キャンペーン「リョーマの休日~自然&体験キャンペーン~」がスタートしているが、それにあわせて牧野植物園は芝生広場を中心とした憩いの場「こんこん山広場」をオープンしている。これから気候が暖かくなるにつれて、多くの観光客が訪れることだろう。

 

牧野の原点に触れる旅

牧野植物園が牧野富太郎を知るのに相応しい施設であることは間違いないが、彼の原点に触れるには、高知の大自然をその身体いっぱいで感じるのもおすすめである。

たとえば、牧野富太郎のフィールドのひとつだった横倉山がある高知県越知町。同町のキャンプフィールド「スノーピークおち仁淀川」。近年、仁淀川は「日本一の清流」として注目を集めており、「仁淀ブルー」の名も知られるようになった。そんな美しき川に面した贅沢なキャンプ施設である。

手ぶらで訪れてもバーベキューの材料や用具を現地で購入・レンタルすることが可能であり、ラフティングに興じれば仁淀川を感じることができる。宿泊棟「住箱」も10棟用意されており、「アウトドア初心者」でも気軽に楽しめるのが魅力だ。

牧野は高知の大自然のなかで育ち、植物に心を惹かれて、それに生涯を捧げた。「好晴の日郊外に出ていろいろな植物を採集し、美しい花の中にかくされた複雑な神秘の姿を研究していただきたいと思います。そこには幾多の歓喜と、珍しい発見とがあって、あなた方の若い日の生活に数々の美しい夢を贈物とすることでありましょう」とは、牧野の至言だ。(牧野富太郎、1994年、『続植物記』桜井出版より)。

高知を訪れれば、牧野が語った「美しい夢」がいかなるものか、身をもって知ることができるにちがいない。

「スノーピークおち仁淀川」の宿泊棟「住箱」

参考情報「リョーマの休日~自然&体験キャンペーン~」
牧野植物園や高知の「自然&体験」に係る情報はこちらの特設サイトをご覧ください。
https://kochi-experience.jp/

 

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