鳥巣 私はね、結局、軍事参議官の問題もあるし、色々見てですな。明治時代は色々そういうのが立派にできて。大正・昭和になって、そういうことをなあなあでやってきた。要するに私は陸海軍が非常に堕落したと。その堕落がですね、大東亜戦争につながって、敗戦に。そしてもう一つは、とくに一番悪いのはね、参謀本部にあると思うんです。参謀本部はね、僕等ドイツの参謀本部をまねた。ところが似て非なるものなんですよね。ドイツの参謀本部はですね、モルトケ(Helmuth von Moltke)なんか立派なものだったんです。そのいいほうだけに幻惑されて参謀本部を作ったけれども、これが統帥権干犯の本家本元になるわけですよ。この参謀本部がですね、もう全く節操がない。参謀本部にはですね、相当な情報が駐在武官から来ているわけですね。そういう情報をもう少し謙虚に受け止めてやればいいものを、それなんか全く無視して自分の独断で色んなことをやる。それで外交まで参謀本部が握ってしまってですな。そして勝手なことをやって、日本をどんどん奈落の底に落としていく。そこには節操っていうものがないですよ。そして信じるべきものを信じないで、信ずべからざるものを信じていた。結局ソ連を信じ、ドイツを信じ、そして紳士の国であるイギリスやアメリカに反した。そういうところでですね、日本国家がこういう状態になった大きな原因がある。
要するに私はそれの元凶は陸軍であって、その陸軍がああいうふうになったのはですね、大正になってシベリア出兵、あの頃の参謀次長は田中義一(旧士8)ですよ。上原(勇作・旧士3)大将が参謀総長。その田中義一(旧士8)はね、要するに徹底的な帝国主義者ですね。彼らがやっぱり私は、日本陸軍を堕落させる大きな要因。それからシベリア出兵で大きな汚職をやる。そういうことから日本の陸軍が大きな堕落の底に落ちるようになった。だからやっぱり謙虚でなくちゃいかんし、信じるべきを信じ、信ずべからざるものは信じないと。いうことをはっきりしなきゃいかん。ところがそのときそのときの目先でですね。ドイツが勝ちそうだということになったら、陸軍のやつはすぐどんどん行って、三国同盟を結んでね、節操がないですよ。そういうところが非常に大きな原因だというふうに私は思うんですがね。
寺崎 保科(善四郎・兵41)さんがね、自衛隊発足するときにね、陸海空同時でなくちゃいかんということを強硬に主張したのはね、やっぱり明治維新以来陸軍に引きずられてね、ずっと海軍は立ち後れているもんだから。ああいうことを繰り返さないという信念から強硬に主張したって書いてあるな。そして29年7月1日に防衛庁、三自衛隊同時発足ということにこぎつけたんですね。こんこんと書いてあるね。そういう教訓があるから、これはずっとまた陸上自衛隊ばかりやったら、また前と繰り返すから、そういう信念でやったと書いてあるな。ま、そういう点も参考になると思いますが。
※本稿は、戸高一成編『[証言録]海軍反省会11』(PHP研究所)より、一部を抜粋編集したものです。
更新:11月22日 00:05