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命令か、志願か…『あゝ同期の桜』の 生き残りが語る特攻の真実

2019年01月09日 公開
2022年06月23日 更新

海軍反省会

特攻出撃の準備をする零戦
特攻出撃の準備をする零戦

本稿は平成元年9月26日に行われた、第116回「海軍反省会」において議論された内容である。『[証言録]海軍反省会』第11巻に収録されている。
海軍飛行予備学生で要務士であった小池猪一氏が、特攻配置にあった予備学生についての見聞を紹介、予備学生が海軍兵学校出身の士官から差別的な扱いを受けていたことを述べている。

※本稿は戸髙一成編、PHP新書『特攻 知られざる内幕』より一部を抜粋したものです。
 

命令とか志願とか言う前に特攻要員になっていた

実際に特攻隊員になったクラスの一人として、この間鳥巣(建之助・兵58)さんの文章を拝見いたしまして、その功罪についていささか意見を述べさせて頂ければありがたいと思います。

14期予備学生というのは、昭和18年の12月10日に海軍に入りまして、約1年間の猛訓練で、19年の12月には実用機教程を終わりまして、卒業と同時に特攻配置というクラスです。

2カ月前に入ったクラス、13期というのは、もう9月から特攻訓練に入っておる。特攻を論ずる前に我々の仲間で川柳がありまして、「卒業が特攻となった14期」、というくらいでありまして、14期というのはまさに卒業と同時に特攻編制と。

特攻編制要員以外は、全部陸戦ならびに本土決戦要員に振り分けられまして、命令とか志願とかそういう問題の以前に特攻隊に組み込まれております。

一、二例を挙げますと、元山航空隊で実用機教程を終わった連中は180名ほど、いわゆる零戦で離着陸、それと簡単な空中戦ができる程度の技量で、すぐに鹿屋に進出を命ぜられて特攻出撃しております。

一番早いのが谷田部(航空隊)のあたりで教育を受けた連中はどんどん九州へ出てきまして、480名の戦死者のうち180名が特攻戦死しております。

これは分類をいたしますと、早くに出た連中は第一線機の零戦、ならびに天山、彗星というような飛行機で攻撃に参加しておりましたが、終盤以降、菊水四号作戦以降は、新式の飛行機はなくなりまして、与えられた飛行機は水上機の零式水偵、零式観測機というのはまだいいほうでして、九五水偵、ならびに白菊、九三中練と、これにいたってはもう戦争というものの様相ではなくて、ありったけのものを駆り出して戦をした、という実態の中で我々の同期の連中は戦死しておったわけです。

これに対して『あゝ同期の桜』(海軍飛行予備学生第十四期会、1966年、毎日新聞社)という本を終戦後に作りまして、これがベストセラーになって今日残っておりますが、どの遺書を見ても志願でもなければ命令でもない、とにかく自分の所属部隊が全部特攻編制であったという事実は、志願とかそういった問題以前に我々が特攻に組み込まれていたという事実を示しております。
 

俺たちがやらなければ誰がやるんだという気持ち

もう一つ残念なことは、優秀な飛行機で比島における神風特攻作戦自体は、非常に搭乗時間も長いし、かなりの技量を積んだ特攻隊員でありまして、かなりの成功率があったんですが、沖縄戦にいたっては、残念ながら立派ないわゆる一人前のパイロットではなくて、ただ飛べて多少の空中戦ができて、ただ毎日突っ込むことしか教わらないというような程度の(飛行時間)100時間足らずの技量で戦をしたという現実は、どうしても後世に記録として残しておくべきと感ずるものです。

せめてアメリカの機動部隊の航空機と戦えるような技量にというのは生き残った我々の感慨ですが、これは当時の現実としては甚だ無理であった。

したがって我々初級士官ならびに搭乗ペアになりました予科練の出身者というのは、要するに祖国のため、崇高なる気持ちで行ったと言えばそれまでですが、事実私の同期で明日特攻に発つんだというやつの部屋を覗いてみましたら、夜になっても電気もつけずにひたすら泣いている。酒を飲んで騒ぐなんてことはとんでもない話で、そういう姿を何人も何人も見て送りました。

したがいまして後世に残った本などを見ますと、まあ、やたらに宴会で酒飲んで騒いでどうこうしたというのはまあ、ずっと前の段階でして、明日特攻機に乗る連中のことは未だに私の脳裏に強く残っております。

そこで鳥巣(建之助・兵58)さんがせっかくこれだけのものを書いて頂きましたので、私なんかのようなものが言うのは蛇足かもしれませんが、当時の現実は志願でもなければ命令でもない。とにかく特攻以外に方法がなかったんだという、それには俺たちがやらなかったら誰がやるんだと、こういう事実です。

ですから命令でもなければ志願でもないというのは、全く事実でして、俺たちがやらなければ誰がやるんだという、これだけを正確に記録に残しておくべきではないかと、あえて申し上げたわけです。

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