アムンセン隊とスコット隊、南極点に向けた史上最大のレースを詳細に描いたノンフィクション『アムンセンとスコット』の魅力とは?『歴史街道』6月号では、関西学院大学経済学部准教授の高島正憲さんに、お薦めの一冊について語って貰った。
※本稿は、『歴史街道』2025年6月号「私の一冊」より、内容を一部抜粋・編集したものです
20世紀の初め、南極点初到達を競ったノルウェーのアムンセン隊とイギリスのスコット隊の、勝利と敗北をテーマにしたノンフィクション。
物語は両者の行動を同時進行で対比的に描きながら進んでいく。その筆致はきわめて分析的である。
アムンセンは探検にあたって周到な準備をし、何よりも南極点初到達への強い意志があった。対するスコットは、途中で計画の変更や判断ミスを重ね、アムンセンより遅れて南極点に到達し、その帰路で隊全員が命を落とした。
人生は選択の連続とその結果の積み重ねともいえるが、選択をするとき、それまでに獲得してきた知識や経験、それにもとづく的確な判断がいかに大切かを学ぶことができるだろう。また人生には競争があり、そこには望むと望まないにかかわらず、勝者と敗者が生まれてしまう。
後世からこの物語をふり返ったとき、勝者であるアムンセンの行動に組織やリーダーのあるべき姿をかさねる人は多いだろう。それでも最期まで任務を捨てずに進んでいくスコットと、献身的な努力を重ねた隊員たちの、彼ら敗者がたどった悲劇的な結末に、やりきれなさと同時に人としての共感をもってしまう。
著者は事実を冷静に記しつつも、敗者へのあたたかいまなざしを随所ににじませており、それが読者にとっての救いとなっている。
更新:06月08日 00:05