2025年03月07日 公開
戦艦大和に勤務していた吉田満氏が、艦内の様子を日記風に綴った『戦艦大和ノ最期』の魅力とは?『歴史街道』3月号では、慶應義塾大学法学部教授・小川原正道さんに、お薦めの一冊について語って貰った。
※本稿は、『歴史街道』2025年3月号「私の一冊」より、内容を一部抜粋・編集したものです
学生時代を振り返ると、同じ年代で太平洋戦争を戦った青年に関する作品を読むことが多かった。なぜ、あの戦争が起こり、彼らは何を思ったのか。日本政治思想史を専攻する原点のひとつも、その問題意識にあった。
特に印象深く思い出されるのが、本書である。著者は東京帝大を卒業して海軍少尉となり戦艦大和に勤務、昭和20年(1945)3月29日、水上特攻作戦のため出航した。以後、艦内の様子などが日記風に綴られていく。
決戦直前、吉田は自問する。いかにして平静を保ち得るのか、華麗に装っても死は死ではないか、皆はそれを受け入れる用意があるのか、どうか――。
艦上で展開された論戦では、必敗論が圧倒的だった。そんななか、哨戒長の臼淵磐大尉が語る。「進歩ノナイ者ハ決シテ勝タナイ 負ケテ目覚メルコトガ最上ノ道ダ」、日本は進歩を軽んじ、潔癖や徳義に執着してきたが、負けて目覚める、俺たちはその先導になり、「日本ノ新生」に先駆けて散る、本望ではないか、と。
あえて反論を試みる者はいなかったという。叙述は激しい戦闘の場面へと移り、臼淵は直撃弾で戦死、吉田は生還した。
発表当時は軍国主義の賛美と叩かれた本書も、今では貴重な証言を伝える名著となった。では、臼淵のメッセージにどう応答しうるのか。我々の自問も尽きない。