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永六輔が名付けた? 三重名物「伊勢うどん」が秘めた歴史

2023年11月02日 公開

兼田由紀夫(フリー編集者)

 

幼児期から親しむ地域のソウルフード

ふくすけ
写真:「ふくすけ」のアレンジメニュー。柔らかい牛肉にもタレをからませた松阪牛肉伊勢うどん(右)。猛暑で人気を集めた夏季限定の冷やし伊勢うどん(左)は「とろろ」や「めかぶ」入り

実は「伊勢うどん」という呼称はそれほど古いものではなく、伊勢で食べたうどんにほれ込んだ作詞家の永六輔氏がラジオで紹介した際にこの呼び名を提案し、これを受けて昭和47年(1972)に伊勢市麺類飲食業組合が統一名として定めてからだという。

このことは、伊勢のうどんの存在を広く知らせるとともに、地域の伝統食としての意識を高める機縁ともなった。

そんなご当地グルメとしてのこだわりを感じさせる店、おかげ横丁の「ふくすけ」を訪ねた。ここでは通常の伊勢うどんと別に、手打ち伊勢うどんを品書きに挙げている。

「通常のうどんも専門の麺屋さんに作っていただいたものを使っていますが、それとは別に自社で手打ちした伊勢うどんも提供しています。こちらは素材として三重県産の小麦にこだわり、職人が粉から手打ちして作った麺を使っています。

ただ、数量が限定になるので、お昼過ぎには売り切れてしまうことが多いのが申し訳ないところです」とおかみの戸塚亜希子さん(肩書は取材当時のもの)。

麺を打ち、茹でるにあたっては、季節ごとの温度や湿度の管理、素材の調整が必要で、同じおかげ横丁内にある別の調理場で手打ちし、茹でた状態で店に持ってきてもらっているという。手打ちの麺は特に太く、茹で上げるのに30分以上の時間がかかるとか。戸塚さんはこう続ける。

「もっちりしていて旅人の胃腸に優しいというのが、伊勢うどんのコンセプト。一般のうどんとは逆に、コシがあってはいけないのですね。といってもトロトロというわけにはいかないので、そのあたりの加減が難しい」。

タレも専門店ごとにこだわるところといい、ふくすけでは出汁に使用する昆布なども厳選し、ほかとは違う甘みがおいしいとの評を得ている。

青ネギだけを薬味にそのタレを麺にからめて味わうのが本来の伊勢うどんだが、地元では日常のうどんであるだけに、お店ごとにいろいろな具を載せたアレンジメニューがあり、肉うどんやカレーうどんも定番である。

近年は伊勢市周辺地域でも伊勢うどんをメニューとするところがあるが、戸塚さんいわく、やはり伊勢が本場。

「こちらでは離乳食が伊勢うどんというほど、子ども時代から食べて育ってきた方が多く、成人して外の地域に出られた人も戻ってきたときには伊勢うどんを食べたいと思われるようです。伊勢を訪れた方には、そんな地元で愛されたうどんを、一般のうどんとは別物の料理として楽しんでいただければと思っています」。

ふくすけ
写真:おかげ横丁の伊勢うどんの人気店「ふくすけ」。昔の伊勢路の茶屋を思わせる風情も面白い

 

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