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本多忠勝は武辺だけではない...三重県・桑名市にみる「家康を支えた街づくり」

2023年10月18日 公開

歴史街道編集部

 

忠勝と家康の孫、そして刀…

桑名城写真:桑名宗社

次は博物館から歩いて5分ほどの桑名宗社(春日神社)へと向かう。桑名の総鎮守であり、本多忠勝も崇敬した神社だ。荘厳な楼門に目を奪われつつ境内に入ると、参拝客が絶えず、柏手を打つ音が清々しく響いてくる。

宮司の不破義人さんに忠勝と桑名宗社のゆかりについてうかがうと、忠勝から朱印状が下賜されただけでなく、鳥居も寄贈されたのだという。

桑名宗社には、それ以外にも本多家とゆかりがある。忠勝の孫・忠刻のもとには、実は徳川家康の孫娘・千姫が輿入れしている。家康と忠勝主従の孫が結ばれたというだけでも興味深いが、千姫は桑名宗社の境内に、家康を祭神とする東照宮を勧請しているのだ。

千姫が忠刻に一目で惹かれたとされることから、東照宮は縁結びのパワースポットとしても人気を集めているそうだ。

東照宮写真:東照宮

境内には「眺憩楼」と札の掲げられた建物もある。不破さんにうかがうと、かの有名な名刀「村正」の写しの常設展示施設だそうだ。

「刀工の村正は、桑名で作刀しました。また、村正が神様に捧げるためにつくった太刀は三振りが残されていますが、そのうちの二振りが、桑名宗社に奉納されたものなんです」

村正が桑名で作刀して、この神社ともゆかりがあったとは驚きだ。

「ただ一方で、村正というと徳川家に仇なす"妖刀"などというイメージをお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。しかし、それは後世に脚色されたものであって、家康公自身も村正を所有し、息子に遺産として残しているほどです。

奉納されている実物を見た時、私はまさに村正の最高傑作だと思いました。実際に、刀に刻まれた銘は、村正としては最長のもので、彼が真摯な想いでこの刀をつくりあげたことがうかがえます。

そんな想いを汚してはならない、ほんとうの村正を知ってほしい。そう願って、この展示施設をもうけたというわけです」

不破さんのお話に深く頷きつつ、眺憩楼で村正を鑑賞する。刀から研ぎ澄まされた清冽な気が感じられ、精魂込めて刀をつくる村正の姿が思い浮かんでくるのだった。

さて、千姫が本多忠刻に惹かれた話に触れたが、豊臣秀頼の正室として大坂城にあった彼女がなぜ、忠刻と出会ったのだろうか。

大坂の陣で大坂城が落城すると、助けられた千姫は、江戸に帰ることとなった。道中、桑名に立ち寄った千姫は、桑名の七里の渡しから熱田へとむかうが、その際に船の指揮をとったのが、忠刻であった。彼の姿に惹かれた千姫は、江戸に帰ると祖父の家康に胸中を伝え、忠刻と結ばれたというわけだ。

その七里の渡し跡は、桑名宗社から歩いて7分ほど。

七里の渡し跡写真:七里の渡し跡

そこから熱田方面を見ると、海で大きく隔てられ、雄大な景色が広がっている。幅が七里(27.5キロメートル)あったことから、七里の渡しの名が付いた。

千姫とは反対に、忠勝は尾張方面から桑名に入ってきたことだろう。どんな思いでやってきたのだろうか。入部後の精力的な動きを見ると、きっと新しい国づくりに燃えていたに違いない。

 

今も桑名に眠る忠勝

宿場の茶店一と白玉写真:宿場の茶店一と白玉

七里の渡し跡を後にすると、すぐ南に、小粋な店構えが目に入る。暖簾に「宿場の茶店一」とあり、白玉や自家製どら焼きといったメニューに惹かれ、店に入った。

店長の増井未来さんにきくと、令和元年(2019)7月に、町歩きの際にゆっくりできる場所を、ということで開店されたそうだ。

お目当ての白玉はモチモチとしたやわらかい食感で、抹茶や黒蜜といった複数の味を楽しめ、癖になりそうだ。

「毎日、一から手でこねてつくっているんです」と増井さん。

県外出身の増井さんによると、桑名の人々は地元への愛情が感じられ、アットホーム。働いていて楽しい町とのこと。きっと、忠勝による町づくりは、地域の結びつきの土台にもなっているのだろう。

ところで本多家は、忠勝の跡を継いだ忠政が大坂の陣で活躍し、その功によって姫路へと加増転封となっている。

しかし、忠勝の菩提寺は、今も桑名にある。それが浄土寺で、茶店一からは西に歩いて7分ほどだ。

慶長15年(1610)、63歳でなくなった忠勝は、この寺に葬られた。墓に静かに手を合わせると、桑名で出会った人々の顔が浮かんできた。

みな、この地を愛しているのが伝わってきて、「忠勝はいい町をつくったなぁ」としみじみ思いながら、桑名を後にしたのであった。

浄土寺の本多忠勝の墓写真:浄土寺の本多忠勝の墓

 

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