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ロシアとはいかなる国なのか~民族、地政学、社会文化から読み解いてみる

2019年08月23日 公開
2019年08月23日 更新

宇山卓栄(著述家)

Peter Velikiy
皇帝ピョートル大帝の記念碑
(サンクトペテルブルグ)
 

真意が見えにくい国──。
北方領土を巡る日露交渉が続く中、ロシアに対して、そうした印象を持つ人も多いのではないか。
ロシアとはいかなる国なのか。
民族、地政学、社会文化、3つの視点から探っていく。
 

宇山卓栄(著述家)
昭和50年(1975)、大阪府生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。代々木ゼミナール世界史科講師を務め、現在にいたる。テレビ、ラジオ、 雑誌など各メディアで、時事問題を歴史の視点でわかりやすく解説している。著書に『「民族」で読み解く世界史』『「王室」で読み解く世界史』などがある。

 

北方領土問題の前にここは押さえておきたい

ロシアは元々、巨大な帝国であった。歴史的に、民主主義を根付かせることができず、皇帝による専制支配が続いた。そのDNAを今も受け継いでいる。

プーチン大統領は2018年3月の大統領選挙で圧勝し、再選された。彼は事実上のロシアの「皇帝」として、敵対勢力を政治的に抹殺し、独裁権を確立している。そして、過去の時代の栄光を求めて、ロシアを帝国に回帰させようとしている。

ロシアは2014四年、クリミアを併合した。かつて帝国が形成した版図を取り戻すことは歴史的使命であると同時に、自らの権利であるとも考えている。

19世紀末のロシア皇帝アレクサンドル三世は「ロシアには友人はいない。二人の同盟者だけがおり、それはロシアの陸軍と海軍だ」という言葉を残した。プーチン大統領はアレクサンドル三世を称賛し、クリミアに皇帝の銅像を建立して、台座にこの言葉を刻んだ。
 

民族――ロシア人とは何か

ロシア人の誕生

ロシア人はポーランド、チェコなどの東欧の人々やバルカン半島の人々と同じくスラヴ人だ。スラヴとは英語の「slave スレイブ」、つまり「奴隷」のことである。

古代ギリシア人がバルカン半島北部のスラヴ人と出会い、「お前たちの話している言葉は何だ?」と問うと、「言葉(スラヴ)だ」と答えた。「スラヴ」というのは本来、「言葉」という意味である。ギリシア人は「では、お前たちをスラヴ人と呼ぼう」ということになった。さらに、ギリシア人は多くのスラヴ人を従わせ、奴隷にしたことでギリシア語で「スラヴ」は「奴隷」の意味となる。

9世紀、ゲルマン系ノルマン人のルス族が北欧からバルト海沿岸にやって来て、ロシアにおける最初の国家であるノヴゴロド国を建国。このルス族の「ルス」がロシアの語源となった。

ロシアの最初の国家がロシアにいたスラヴ人ではなく、ノルマン人によってつくられたのは、ノルマン人が海上交易等で富を蓄え、スラヴ人よりも経済的に優位であったからである。また、スラヴ人は部族ごとにバラバラの状態であり、ノルマン人の侵略に対抗できなかった。

しかし、ノルマン人は現地のスラヴ人らと同化していき、両者の区別は短期間の内になくなり、いわゆるロシア人が形成されていく。そして、ノヴゴロド国から派生したモスクワ大公国(14世紀)やロマノフ朝(17世紀)が、ロシア人によるロシア国家として継承されていく。

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