旧ユーゴスラビアのロマの集落を訪ねて
――衣・食・住をはじめとする世界の文化を知ることができるのも、本書の醍醐味です。
早坂 食でいえば、ハンガリーで「あれ、これモンゴルでも食べたな」と思って調べたら同根だった、という経験がありました。また、ルーマニアの肉団子と似た料理がセルビアにもあったなど、多くの国を巡ったから出会える「気付き」がありました。
さらに面白いのは、世界各地の文化に触れていると、やがて日本との不思議な繋がりが見えてくる、ということ。詳細は本書を手にとっていただきたいのですが、チェスと将棋は、由来となる遊びは同じで、ヨーロッパとアジアにそれぞれ伝わる過程で、その土地の文化・風習にあわせてルールも変わっていきました。
日本人は、日本は世界の端っこで鎖国もしていたから世界史とは関わりが薄いと認識しがちです。しかしじつは、意外な繋がりがたくさんあるのです。
――早坂さんといえば、累計100万部を超える「ジョーク集」シリーズでも有名です。海外のルポと「ジョーク集」はややジャンルが異なるようにも思いますが。
早坂 たしかに、よく「幅広く書き分けられていますね」と言われるのですが、自分としてはノンフィクションとジョークが異なるジャンルという感覚はありません。
ジョークは権力者ではなく庶民の想いがひとつの形になったもの。そう考えると、名もなき人の声に向き合う自分の取材スタイルの延長線上にあります。だから私にとっては海外ルポもジョークも同じ世界観なんです。
中東のパレスチナに滞在していたとき、日本の新聞記者やジャーナリスト志望の若い人間とよく乗り合いバスで紛争地に向かいましたが、私はひとりジョークを集めていた。当時は「何をやっているんだ」と言われたものですが(苦笑)、皆で同じ写真を撮っても仕方がない。
ジョークで笑い合っていた人が、次の日には命を落としているかもしれない。それが紛争地の現実です。新聞やテレビでは悲惨な面ばかりが報道されますが、普通に暮らす人が戦禍に巻き込まれている部分まで目を向けてこそ、「紛争を伝える」ということに繋がるのではないでしょうか。
「硬軟」「清濁」などさまざまな言葉がありますが、何事も両面あるのがこの世の中。私はその両方を伝えたいと思っていますし、その意味では「ジョーク集」の背景を知ることができるのが本書なのかもしれません。
――最後に、本書をどんな方に読んでほしいですか。
早坂 とくに若い人ですね。彼らには、もっと旅に出てほしい。いまはネットで情報はいくらでも手に入ると思われがちですが、それでも現地に行かないと分からないことは山ほどある。古臭い言い方かもしれませんが、汗をかいて、現地の匂いを嗅ぐことが大切なのです。そのなかで恋愛してもいいし、仕事を見つけてもいい。「心を動かされる」経験はネットで写真を見るだけではできないのです。
そんな旅のお供に本書を選んでいただければ、作家冥利に尽きます。「書を捨てよ、町へ出よう」とは寺山修司の言葉ですが、私は書を持って町に出ればいいと思う。むしろそれこそが、頭も体も鍛えられる一番の方法ではないでしょうか。
更新:11月24日 00:05