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夜叉掃部・井伊直孝~大坂の陣での奮戦と招き猫の逸話

2017年06月27日 公開
2019年05月29日 更新

6月28日 This Day in History

井伊家家紋

今日は何の日 万治2年6月28日

夜叉掃部・井伊直孝が没

万治2年6月28日(1659年8月16日)、井伊直孝が没しました。徳川四天王の一人・井伊直政の次男で、「夜叉掃部(やしゃかもん)」の異名で恐れられた武将として知られます。

直孝は天正18年(1590)に井伊直政の側室の子として駿河に生まれました。 一説に生母は直政の正室の侍女であったともいい、同じ年に正室が生んだ男子が長男・直勝(直継)です。幼名・弁之助。 幼い頃は井伊家領内の上野国安中の寺に預けられ、養育されました。寡黙ながら父親に似て剛直な性格であったといいます。

慶長7年(1602)、父の直政が関ケ原で受けた鉄砲疵がもとで没すると、家督は兄の直勝が13歳で継ぎます。直政は石田三成の居城であった佐和山城に入っていましたが、直勝は家臣らの勧めもあり、新たに金亀山に城を築き始めました。これが彦根城です。

大坂の陣で真田信繁と赤備え決戦

一方、直孝は2代将軍秀忠の近習となり、慶長15年(1608)には19歳で上野国白井藩1万石の大名となりました。慶長18年(1613)には伏見城番役に就いています。 翌慶長19年(1614)、大坂冬の陣が勃発。25歳の直孝は、病弱の兄に代わって井伊の赤備えを率いて出陣します。直孝は藤堂高虎、松平忠直、前田利常らとともに、大坂城の南に真田信繁(幸村)が築いた「真田丸」に攻めかかりました。結果は、関東方の大敗。功名を焦るあまり、真田の挑発に乗せられた直孝でした。しかし、家康からは「井伊の猪突猛進が味方を奮い立たせた」と賞賛されます。

慶長20年(1615)、直孝は正式に井伊家の家督を継ぐことを命じられ、井伊家18万石のうち、直孝は彦根藩15万石、兄の直勝は安中藩3万石を与えられることになりました。そして同年5月の大坂夏の陣では、井伊直孝は藤堂高虎とともに、関東方(徳川方)の先鋒を担うことになります。直孝は井伊勢5500の先頭に立ちました。 5月6日、大坂方が高野街道を進む関東方の本営を衝こうとしていることを察知した藤堂、井伊隊は、急遽、これを迎撃することにします。そして河内国八尾・若江で藤堂隊が大坂方の長宗我部盛親、木村重成隊と激突、藤堂隊は惨敗を喫します。しかし、その藤堂隊の背後から、新たに木村隊に攻めかかったのが直孝の井伊隊でした。激闘の末、井伊の部将・庵原朝昌が木村重成を討ち取り、木村隊を敗走させ、このなりゆきに長宗我部隊も退却を余儀なくされます。夜叉掃部の面目躍如でしょう。

翌5月7日の天王寺の戦いでは、さすがに前日のダメージから井伊隊は先鋒から外れました。しかし、激戦の末に関東方の勝利が明白になると、直孝は将軍秀忠の命で大坂城に攻め入り、豊臣秀頼らが籠もる山里曲輪に鉄砲を撃ちかけました。これによって秀頼の側近たちは、秀頼助命の希望を失うことになります。「後世に禍根を残さぬためである」と直孝は言い放ちました。淀殿、秀頼母子は自害して果てることになります。

豪徳寺の招き猫

この功績により、井伊家には5万石が加増され、直孝は従四位下侍従を与えられます。 さらにその後、直孝は幕府の中枢における活躍が認められ、2度加増されて30万石の大大名となりました。徳川家からの信頼の篤さを窺えます。寛永9年(1632)、秀忠は臨終の際に枕元に直孝と松平忠明を呼んで、3代将軍家光の後見役に任じました。老中たちとともに国政を担う「大政参与」という役柄で、後にここから大老が生まれたともいわれます。

直孝はその後も幕閣の重鎮として活躍し、万治2年に没しました。享年70。 伝承によると、直孝が鷹狩の帰りにある寺の門前で、猫が手招きをしています。不思議に思って直孝が寺に入ると急に雷雨となり、直孝は雨に濡れずに済みました。 喜んだ直孝は寺に多額の寄進をしたといいます。その寺が世田谷の豪徳寺で、福を呼ぶ招き猫はここから生まれたといいます。また別の説では、鷹狩の帰りに急な雨となり、直孝が豪徳寺の大木の下で雨を凌いでいると、三毛猫が手招きをしています。 不思議に思って、木の下を出て猫に近づくと、たった今まで雨宿りしていた木に雷が落ち、直孝は猫のおかげで命拾いをしたといいます。

招き猫の発祥の説は他にもありますが、強面の夜叉掃部・直孝とかわいい猫の組み合わせが何とも絶妙な感じがします。彦根のゆるキャラとして絶大な人気を誇る「ひこにゃん」も、もちろんここから誕生しました。

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