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「シンデレラ」のルーツは? 世界にどうやって広まった?

2019年06月25日 公開
2021年08月17日 更新

川田雅直(シンデレラコレクター)

cinderellaグリム版
《1920年代に描かれたアメリカのシンデレラ挿絵。グリム版》
 

日本では昔話「糠福と米福」

アジアで広がったシンデレラ譚としては、唐代の中国、860年に出版された『酉陽雑俎』に掲載されている「葉限」という物語がある。魚が援助者となる珍しい内容で、冒頭に秦や漢より前の時代から口承されてきたとあることから、かなり早い段階から中国に伝わっていたと考えられる。

靴にピッタリはまる小さい足が幸せな結婚につながったとも解釈できるシンデレラは、唐代から近代まで続いた「纏足」の因習を連想させる。

ちなみに、この「葉限」を日本に紹介したのは、明治の博物学者・南方熊楠であった。ヨーロッパの民俗学にも精通していた熊楠は、「西暦九世紀の支那書に載せたるシンダレラ物語」として1911年に発表した。

日本に伝わる最古のシンデレラ譚といわれているのは、昔話として口承されてきた「糠福と米福」である。この話には、靴による花嫁テストの話が出てこないが、それは日本に靴の文化がなかったからであろう。

日本に伝播してきたルートははっきりしないが、中世には『落窪物語』、昔話の「姥皮」といった、シンデレラ譚と見られる物語が残されており、遅くとも平安時代にはあったと考えられている。
 

原点とされる2つの物語

現代に伝わるシンデレラ物語の原点とされるものに、2つの作品がある。

1つはシャルル・ペローによる『ペロー童話集』に収録されている「サンドリヨン、あるいは小さなガラスの靴」。先に述べたように、ディズニー映画の原作ともなっており、今日、「シンデレラ」といわれて誰もが思い浮かべるのが、このペロー版シンデレラであろう。魔法使い、かぼちゃの馬車、ガラスの靴……、これらはすべて、ペロー版に登場するモチーフである。

ペローは各地から集めた民話を、当時の風俗に合わせてアレンジし、童話集として出版した。貴族向けに整えられた物語は、残酷な場面がカットされ、意地悪な姉たちも最後は改心し、全員がハッピーエンドを迎える。物語の終わりに教訓が添えられているのも、ペロー童話の特徴である。

もう一つのシンデレラ物語の原点は、グリム兄弟による「灰かぶり」である。収録されている『グリム童話集』は、1812年の発表から改訂を繰り返し、一八五七年の第七版でようやく今の形におさまった。現代でも世界中で読まれている大ベストセラーである。

グリム版シンデレラの大きな特徴は、援助者が魔法使いでなく、ハシバミの木であること。ヘーゼルナッツの実がなることで知られるこの木は、古代ゲルマンから、生命を守る信仰の木として崇められてきた。

物語では、亡くなった母親の墓に植えられたハシバミの木が、ドレスや靴を与えてくれる。

また、靴が入らない姉たちの足を、継母が容赦なく切り落とさせ、最後には姉たちへの罰として、ハトが目をついばみ、盲目にしてしまうなど、残酷な場面も登場する。

魔法使いが出てこないので、かぼちゃは馬車にならず、ねずみも従者にならない。ガラスの靴の代わりにシンデレラが履くのは金の靴である。

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