2019年06月25日 公開
2021年08月17日 更新
《1890年代にフランスで出版された絵本の挿絵。ペロー版》
世界中で最もよく知られたプリンセスの物語「シンデレラ」。しかし、あらすじは知っていても、その起源は意外と知られていない。
シンデレラは、いつ、どこで誕生し、どのように広まっていったのか。
膨大なコレクションを、その系譜とともにまとめた『世界のシンデレラ』を上梓した、ギネス世界記録認定のシンデレラコレクターが解説する。
「シンデレラ」と聞いて、最初に思い浮かべるものは何だろう。魔法使い、かぼちゃの馬車、ガラスの靴、世界中の女性を魅了する夢物語……。
実はこれらのイメージには、1950年にディズニーが制作し、大ヒットした長編アニメーション映画の影響が大きい。
ディズニー映画の原作となった物語は、17世紀後半、ルイ14世による絶対王制時代に活躍した、フランスの童話作家シャルル・ペローによる「サンドリヨン、あるいは小さなガラスの靴」である。
《シャルル・ペローによる『ペロー童話集』(1904年)の挿絵》
物語の原型は、さらに古くから存在していたといわれており、古代エジプトから中近東、アジア、北アメリカと、類話が世界中に分布していたことがわかっている。
「シンデレラ」は、時代や地域によって姿を変え、様々なバリエーションで伝承されてきたのである。
シンデレラ物語の基本構造は、だいたい次の5つのポイントから成り立っている。
1)継母と、その連れ子である姉二人のいじめによる試練
2)ヒロインの援助者の出現
3)舞踏会、宴会といった非日常的な舞台
4)花嫁になるためのテスト
5)結婚というハッピーエンド
これを踏まえ、現在、最も古いシンデレラ物語といわれているのが、古代エジプト時代に生まれた「ロドピスの靴」である。
これは、古代ギリシアの歴史家ヘロドトス、ストラボン、アイリアノスらの記述により、紀元前五〜六世紀には存在していたことが明らかになっている。
物語は、ドーリカという北ギリシアの裕福な家庭に生まれた少女が海賊に誘拐されることから始まる。奴隷として売られ、娼婦として働いていたドーリカは、身請けされて庭園で水浴びをするために靴を脱いだところ、靴をワシに持ち去られてしまう。ワシは首都メンフィスまで飛んでいき、アマシス王の膝に偶然靴を落としたことがきっかけで、王はドーリカを探し出し、2人は結婚するというもの。
「ロドピス」とは、「バラ色の頰をした金髪女性」の意味で、美しく成長したドーリカをこう呼んだ。
細かい部分の違いはあるが、シンデレラ物語の要素を備えている。
聖書の中にもシンデレラ譚は存在する。旧約聖書の「エステル記」は、両親を亡くした美貌のユダヤ人少女エステルが、王妃へとのぼりつめ、さらにはユダヤ人を救うという物語で、宗教色の強い内容となっている。
ヨーロッパにおいては、多くのシンデレラ譚が流布していたが、キリスト教が説く清貧の思想の影響で、いわゆる「玉の輿婚」は広く受け入れられなかった。
やがて近代になると、読み物としての作品が出てきた。その中で重要とされるのは、イタリアの詩人・バジーレによる民話集『ペンタメローネ』に収録された「灰かぶり猫」である。
『ペンタメローネ』は、ヨーロッパにおける初の本格的な民話集で、「灰かぶり猫」はヨーロッパのシンデレラ物語の原点ともいわれている。
更新:11月23日 00:05