2018年01月03日 公開
2022年07月14日 更新
――新刊の『歴史の勉強法』(PHP新書)についてですが、勉強法というテーマで本を書かれたのは初めてですか?
山本 はい。私自身の体験やノウハウをたくさん盛り込んでいます。受験勉強ではなく、ある程度の年齢になって、日本史を学び直したい人が、こういうふうに勉強すればより効果的、より愉しいというヒントを満載したつもりです。小説や歴史書を読むときなどにも、役立てていただければ幸いです。
――初級編では、旧国名や官位、お金の換算方法、暦と時刻といった、ぜひ押さえておきたい基礎知識を解説されています。これらの項目は、どのようにして決められたのでしょう。
山本 旧国名など、覚えてしまったほうがいいと思われる項目に加え、学生によく聞かれる項目を入れ込みました。
江戸時代の物価について、相場によって左右されるので感覚がつかめないという学生が多いのですが、人件費はかなり安く、米は比較的高価、衣料はかなり高かったと考えていいでしょう。砂糖は信じられないほど高値でした。
官位についても、難しいと思っている人が多いようですが、基本がわかれば難しくありませんし、慣れてくると、官位によって、その人間の立ち位置がわかるので便利です。『歴史の勉強法』では、基本的な考え方を説明しつつ、より詳しく知るための参考書も紹介しています。
――中級編では、先生が京都や鎌倉、古戦場跡など歴史の現場をどう歩いていらっしゃるかについて書かれていますが、現場に行く際、一番大切なことは何でしょう。
山本 現地に入る前に、興味を持っているテーマに沿ったコースを考えてから現場に立つと、様々な発見があり、旅の愉しさが倍増しますので、ぜひ事前準備を怠りなくしてください。
たとえば京都でおすすめなのは、天皇の住まいだった京都御所ですね。御所はもともと別の場所にあったのですが、現在地に移った経緯に思いを馳せつつ、儀式や政務が行われた場所を見て歩くのも勉強になると思います。
もうひとつ、世界遺産の仁和寺の金堂は、もとは御所の紫宸殿だった建物です。現存最古の紫宸殿の遺構になるわけですが、それを知って見ると、寺の建物でも別の見方ができ、興味深いのではないでしょうか。
――京都の探訪記では、御土居のお話も面白かったです。
山本 残っているところは少ないのですが、北野天満宮の裏に行くと、こんなすごいものが京都を取り囲んでいたのかと驚きます。秀吉の時代に造られたものなのですが、それまでは京都の範囲を示すものがなかった。これは日本の都市全般に見られる特徴です。外国では都市は必ず城郭で囲まれていますから。それがない日本は、どういう国なのかと考えると新たな発見があると思います。
――上級編では、古文書の読み方や、疑問に思ったことを調べるためにはどんな方法があるかをご教授いただいています。参勤交代については、話題になった映画『超高速! 参勤交代』のモデルになった藩の実態と、参勤交代が、実際どのように行なわれていたかを教えていただき、意外な姿に驚かされました。
山本 参勤交代には、煩雑な儀礼があります。映画ではそんなことはすっ飛ばしていますが、この儀礼が意外に面白い。他の大名の領地を通るときは挨拶の使者を遣わし、領地の大名の方も船を用意したり道を整備したりしています。大名を見送ったはずの本陣の亭主が、次の宿泊先に先回りしてお迎えするなど、教科書には出てこないお話も、史料にはたくさん記されています。
――古文書の例として戦国武将の手紙についても紹介されているのですが、手紙というのは様々な解釈ができるのですね。
山本 たとえば真田信繁(幸村)が、大坂夏の陣直前に、姉婿の小山田壱岐とその息子に宛てた手紙が残っているのですが、この手紙は信繁が素直に心情を吐露したものなのか、はたまた身内を騙しにかかっているのかは、意見が分かれるところです。
たくさん手紙が残っている人の場合、手紙を読んでいるとその人物の考え方がわかってきて、これは表向き言っているだけで本心は違うのではないか、といった推測も可能になります。
――戦国武将や大名で、手紙か大量に残っているのは誰なのでしょう。
山本 細川忠興や島津義弘などですね。島津家の場合、戦国末期には当主クラスが3人いて、意思疎通をきちんとしておかないと一族が生き延びられないので、親子や兄弟の間で盛んに手紙の遣り取りをしています。
更新:11月23日 00:05