2016年01月01日 公開
2023年03月09日 更新
新年、明けましておめでとうございます。平成28年(2016)1月1日を迎えました。
今年が皆さまにとって、輝かしい1年になりますことを祈念いたします。
昨年は弊誌「歴史街道」、「歴史街道」Facebook、及び4月にスタートした「WEB 歴史街道」をご愛顧賜り、誠にありがとうございました。
今年は弊PHP研究所にとりましても、創立70周年という節目の年にあたります。
また弊誌「歴史街道」は創刊から28年を迎えます。
しかしその一方で、出版業界を取り巻く環境が厳しさを増す一方であることは、皆さまご承知の通りです。
昨年1年間に国内で出版された書籍と雑誌の販売額は、前年より約5%減の1兆5,200億円程度で、過去最大の落ち込みとなる見通しであると発表されました。市場規模は、売上のピークであった平成8年(1996)の6割にも及びません。
またジャンルで見ると、書籍の販売額が前年の約1.9%減の7,400億円前後であるのに対し、雑誌は8.2%減の7,800億円前後と減少率が過去最大で、特に雑誌の落ち込みが深刻であることがわかります。
「週刊誌の販売が大きく落ち込むなど高齢層にも“雑誌離れ”の傾向がうかがえる」と出版科学研究所は分析していますが、週刊誌だけでなく、月刊誌も厳しい状況に置かれています。そうした中で、弊誌はどうあるべきかを考えなくてはなりません。
一方、総務省の調査では、昨年のスマートフォンの利用率は全世代合わせて62.3%、中でも20代は94.1%、30代は82.2%と、圧倒的多数を占めています。ちなみに50代は48.6%、60代は18.3%。
そしてインターネットの利用時間も年々増加しており、その牽引役がスマートフォンで、一人あたりの使用時間は前年より5分多い1日平均73分。つまり、情報の収集はスマートフォンを用いたネットが主になっていることは動かしがたい現実なのです。
雑誌の落ち込みとスマートフォンの台頭。時代の変化を象徴する現象といえるのかもしれません。では、紙媒体としての雑誌は、これからなくなってしまうのでしょうか。
これについては、誰も正解は持っておらず、雑誌編集に携わる者は皆、頭を悩ませているはずです。もちろん私にも確かなことはわかりません。そこで、ここからは、あくまで私見を申し上げさせて頂ければと思います。
雑誌という紙媒体が、単に情報を右から左へ流すだけのものであるなら、到底生き残ることはできないでしょう。スピードにおいて、ネットにはかなわないからです。ただそれは、これまでのテレビや新聞と比較しても、同じ事がいえます。
雑誌の強みは、情報の速さというよりも、その情報の分析、わかりやすい解説、信頼できる内容といった付加価値にあります。誰が発信したかよくわからず、内容の信憑性に不安のあることの多いネット情報とは大いに異なります。
雑誌に掲載された記事は、記名原稿であれば筆者に、またそれを掲載した編集部が責任を負います。そこに信頼性が生まれ、付加価値のある発信は「ブランド力」を持つことになります。その「ブランド力」に対して、広告を出そうというクライアントも生まれるのです。
つまり、今後、雑誌が存在し得るか否かは、それぞれの雑誌の発信する内容に、購入するに値する付加価値があり、ブランド力があることを、どれだけ多くの人が認めるかにかかっているといえるのでしょう。
ネットの世界に慣れると、情報とは無償で入手できるものと思いがちです。確かに単なるニュースであればそうでしょう。しかし雑誌は、たとえばその情報を深く掘り下げ、本当はそこにどんな意味が秘められているのか、どんなことを考えるべきかを提供し、その価値に見合う対価を頂くものです。無償の情報とは質が異なるのです。
もちろん、すべての雑誌が対価に見合う質の高い情報が提供できているかは疑問であり、読者が買うに値しないと思うものは容赦なく淘汰されていくのが現実です。これについては、雑誌編集者は肝に銘じなければならないことでしょう。
もう一つ、紙雑誌の強みがあるとすれば、それは意外性かもしれません。たとえばネットで書籍や雑誌を購入する人は増えていますが、ネットでは真似できないリアル書店の強みがあります。それは意外な発見です。
ネットの書店は多くの場合、目的の本を検索し、購入して終わりますが、リアル書店では店内を見て回っているうちに、予想していなかった面白そうな本を見つけるという、意外な発見が起こりえます。この意外性こそが、これからのリアル書店の鍵を握ると私は思っているのですが、雑誌にも似た側面があります。
雑誌を購入する動機は多くの場合、特集記事に関心のある場合でしょう。「歴史街道」1月号でたとえれば、「エルトゥールル号、杉原千畝…命の秘話」の総力特集だから購入したという方も少なくないはずです。
ところが読んでみたら、総力特集だけでなく、第二特集の「江戸の年末年始」が興味深かった、ドラマ「あさが来た」に登場している五代友厚の記事が印象に残ったという、時代もテーマも異なる記事への声が実際に少なからず寄せられました。
こうした全く予期せぬ面白い記事との出会いは、紙雑誌だからできること。記事のばら売りやピンポイントで読むネットの記事では、起こりえないものなのです。逆に言えば、そうした意外性で読者を楽しませる潜在的な面白さをどれだけパッケージしているかが、紙雑誌に求められているものなのかもしれません。
今年もさまざまな試行錯誤が続くとは思いますが、何より読者の方に有益な情報、生き方・考え方を歴史の中から探り、お届けしてまいりたいと考えております。
本年も月刊「歴史街道」、「歴史街道」Facebook、「WEB 歴史街道」をご愛読賜りますよう、何卒よろしくお願い申し上げます(辰)
更新:11月23日 00:05