今回は、製作中に学んだ「刀を“感じながら”鑑賞する」という方法について書かせていただきます。
最近の刀剣ブームともいえる関心の高まりの中で、各地の博物館や美術館、刀剣を展示している施設に、多くの方が足を運んでいます。
でも、刀を目の前にしても、ただ刀を眺めて、説明文を読んで終わり…では、せっかくの機会がもったいないですね。
では、どうしたらもっと深く、刀を鑑賞することができるのでしょうか。
刀を鑑賞するときに、初心者がとまどってしまうのが、「地鉄〈じがね〉」「沸〈にえ〉」「刃文〈はもん〉」といった専門用語ではないでしょうか。
もちろん、最低限の知識を身に付けておけば、刀の楽しみ方がずっと広がることは間違いないことでしょう。
でも、知識にこだわりすぎると、かえって刀の本当の魅力を見失うことがあります…と、今号にご登場いただいた老舗刀剣販売店・銀座長州屋の小島つとむさんは教えてくれました。
「たとえばワインを飲むときに、これは何年物で、産地はどこで…なんて知識ばかりにこだわると、本当の美味しさがわからなくなってしまうことがあります。まず、理屈抜きでワインを味わってみることで、本当の魅力に気づくことがあるのです」
小島さんは、刀の鑑賞で大切なのは、「現物主義」だと言います。本や写真からではなく、ガラスケース越しでもいいので、実物の刀を自分の目でじっくりと観察することが、刀の理解を深める第一歩なのだそうです。
「一つアドバイスしますと、博物館などでしゃがんで刀を下から眺めてみてください。光の反射が一変して、上からでは見えなかった刀の細かいところまでが見えることがあります」
そんな風に刀をいろいろな角度や距離から見ていくと、「刃が明るい印象だな」「緊張感があるように思えるな」というように、刀の一本一本に、様々な感じ方があることに気づきます。
「その“感じ方”が大切なのです。専門用語で刀の特徴を語ることも一つの鑑賞法です。でも、初心者の方は、刀を見た時に感じたことを覚えていって、比べながら鑑賞していけば、自分なりの刀の楽しみ方が身に付きますよ」
そのためにも、自分の好きな一振りを見つけてくださいと、小島さんはアドバイスしています。自分の感性にぴったりとくる一振りが見つかれば、それを物差しにしていろいろな刀を見比べていくことができ、刀の世界がぐっと広がるそうです。
今号を製作しながら、私が一番印象に残ったのは、「童子切安綱」でした。源頼光が酒呑童子を斬ったと伝わる名刀中の名刀です。独特の反りを持ち、刃に浮かぶ刃文が言葉にできない複雑さを持ちながら、見る人に思わず居住まいを正させるような美しさを内包している…そんな風に感じました。
とはいえ、これは博物館から拝借した写真を見ての話ですから、実際に自分の目で見たら、どれほどのインパクトがあることか…。
「童子切安綱」は、東京国立博物館が所蔵しています。実際に間近に見る機会があれば、ぜひともこの目で見て、“感じたい”と思っています。(立)
写真は小島さんおすすめの源清麿の短刀。丸い碁石が連続するように見える「互の目」の刃文が特徴です(写真提供:銀座長州屋)
更新:11月23日 00:05