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岡田以蔵の知られざる謎...拳銃を所持していた? 本当は貧しくなかった?

2018年12月10日 公開
2023年03月31日 更新

『歴史街道』編集部

岡田以蔵の拳銃(個人蔵)

 

近年の「以蔵ブーム」

龍馬か、高杉、はたまた西郷か――。「維新の志士のなかで誰が好きか?」と問われれば多くを語りたくなるのが歴史好きの性だ。幕末には、それだけ魅力的な人物が多かった。

近年、とりわけ注目を集めているのが、「人斬り以蔵」の異名をとる岡田以蔵だ。2010年のNHK大河ドラマ「龍馬伝」で人気俳優の佐藤健さんが演じたことで話題となり、その後も、『正伝 岡田以蔵』(2013年、戎光祥出版)が5刷の売れ行きをみせている。いまの「以蔵ブーム」の背景には、人気ゲームの影響もあるようだ。

 

フランス製の拳銃

以蔵が取り上げられる際、必ずといっていいほど語られるのが「謎が多い」という点である。たしかに、慶応元年(1865)に28歳の若さでこの世を去るまでの、足跡や人柄を表わす史料は少ない。その意味では、現在、高知県立坂本龍馬記念館の特別展「龍馬‐真物から感じる龍馬の魂‐」(12月24日<月・祝>まで)で展示されている「岡田以蔵の拳銃」は非常に貴重だ。

以蔵といえば、つねに「人斬り」という枕詞が用いられる。拳銃を所持していたと聞けば意外に思われるかもしれない。同記念館の学芸員・三浦夏樹氏によれば、この拳銃は以蔵の弟・啓吉の子孫に伝わるものだという。

注目すべきは、フランスの老舗メーカー「LEFAUCHEUX(ルフォシュー)」製であることだ。幕末当時のフランスは、徳川幕府を支援していた。以蔵は幕臣・勝海舟の護衛をしていた時期があった。そのときにこの拳銃を入手したとすれば腑に落ちる。「隼の如し」という当時の評が残るように、剣術が相当の腕前だったとされる以蔵。護衛の任務を真摯にはたすという想いから、拳銃も手に取ったのだろうか。

しかし、そもそも以蔵はなぜ勝の護衛をしていたのか。

以蔵といえば、武市半平太のもとで「天誅」と称して暗殺を繰り返したと知られる。武市は土佐勤王党の領袖であり、尊王攘夷運動に邁進していた。つまり、幕府とは対立関係にあった。にもかかわらず、文久3年(1863)以降、以蔵が勝を護衛する任に就いたのは坂本龍馬の仲介だったのかもしれない。

この頃、土佐勤王党による「天誅」はひと段落していた。ならば、暗殺を主たる任務としていた以蔵はもはや役に立たない。以蔵はそんな武市の考えを敏感に感じ取り、自分の行く末を思い悩み始めたのではないか――とは、歴史家であり、「龍馬伝」の時代考証を務めた山村竜也氏の見立てだ(『歴史街道』2010年4月号)。

龍馬と以蔵は、巷間いわれるような幼馴染ではなかった。しかし、若い頃からの知り合いであったのは間違いない。こうした背景から、以蔵は勝の護衛に就いたものと思われる。

 

以蔵は貧しかったのか

以蔵といえば、非常に貧しかったというイメージを持たれがちだ。小説などの影響で足軽だったとも語られる。

しかし、彼の家は郷士であった。土佐藩の家臣は上士(関ケ原後に入封した山内家の武士)と下士(主に戦国期の長宗我部家の旧臣)に分かれていたが、郷士はたしかに下士ではあるものの、そのなかでは最上位。しかも以蔵は長男である。

着るものに困るほどの貧しさだったとは考えにくく、それなりの教育も受けていたはずだ。この点ひとつをとっても、以蔵がいかに先入観で語られているかが窺える。

そして以蔵に関してあまり語られていないのが、実家・岡田家との関係である。以蔵が脱藩したのは文久3年、25歳のことである。その後、前述のとおり勝海舟の護衛に付くわけだが、不思議なのは土佐の岡田家が大きな処分を受けていない点だ。

当時の土佐において脱藩は「重罪」である。しかも、以蔵の場合は後継ぎであった。亀山社中(いわゆる海援隊士の前身)のメンバーのひとりである池内蔵太の実家は、当主である内蔵太が土佐を出たことで取り潰しの危機に立たされた。

当時の土佐において、こうしたケースは1つや2つではなかった。さらにいえば、以蔵は脱藩後に何人もの要人を斬っている。本来ならば「重罪人」扱いされてもおかしくはない。

しかし、岡田家は取り潰しなど大きな処分をついぞ受けていない。これは、果たしてなぜだろうか。「岡田家が以蔵と縁を切ったから累が及ばなかったのではないか」との声も聞こえてきそうだが、それも事実ではない。

 

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