2016年03月11日 公開
2023年10月04日 更新
「三重津ウォーカー」のVRスコープで見た三重津海軍所(提供:佐賀県)
世界遺産に登録された三重津海軍所跡の遺跡は、すべてが地下に眠っており、残念ながら現地でそのものを見ることはできません。
では来訪された方に、イメージを膨らませていただくには、何を「見せ」ればいいのか。そうした思いから、現在、佐賀県と協力し、VR(バーチャルリアリティ)をはじめ、映像やイメージ画像でかつての三重津海軍所を見ることができるよう工夫を凝らしています。来訪された方は、隣接する佐野常民記念館で借りることができるVRスコープを持って歩けば、幕末当時の海軍所を〝体感〟できるでしょう。
また、佐野常民記念館の3階では発掘や文書の調査成果も展示しており、跡地と併せて2時間以上かけてじっくりと見て回って、堪能される方も少なくなく、ご好評をいただいています。
私は、世界遺産調査室室長として遺跡発掘や文書調査に携わりました。そして、幕末、西洋列強の脅威が忍び寄る中で創設された海軍の様子や、日本の伝統技術によって造られたドライドック(船渠)の実像に触れることで、三重津海軍所は日本の近代化の過渡期を象徴する存在だと強く感じたものです。同時に、遺跡発掘や文書調査を行なうことで、実に様々なことが分かるのだということを、改めて教えられました。
たとえば、三重津海軍所の特徴のひとつに、ドライドックがあります。これは現時点で現存が確認できる日本最古のドックで、存在自体は以前より認識されていました。しかしそのスケールや構造、周囲に製作場などの様々な施設があったことは、平成21年(2009)に発掘を行なってはじめて分かったことです。文書などの記録で残るものと、現地に残るものを組み合わせることで、色々なことが見えてくるのだと肌で感じることができました。発掘の最中、ドックの一部を掘り当てた時の驚きは、今でも鮮明に覚えています。昨年(平成27年〈2015〉)10月からは、出土した遺跡の大きな写真パネルを、実際に埋まっている位置の上に置くことで、調査成果を〝体感〟していただく新たな試みを始めています。また、VRスコープを用いた仕掛けも、他の文化遺産に先駆けたものだと思います。
文化財に関心を抱いている方も、世界遺産の雰囲気を味わいたい方も楽しむことができる――三重津海軍所跡は、そんな史跡を目指しています。
更新:11月21日 00:05