2025年06月30日 公開
2025年06月30日 更新
二代目中村吉右衛門主演「隔週刊 鬼平犯科帳DVDコレクション 再刊行版」好評発売中 HDリマスター版で、全シリーズ・スペシャルを完全網羅 ⓒ松竹株式会社/フジテレビジョン
歌舞伎座で、最新ドラマでと「鬼平」が注目を集めている。時代劇研究家でエッセイストのペリー荻野さんが「2025年の『鬼平犯科帳』作品」の魅力を熱く紹介する。
2025年7月、歌舞伎座「七月大歌舞伎」夜の部で松本幸四郎主演の「『鬼平犯科帳 血闘』二代目吉右衛門に捧ぐ―」が上演される。
「鬼平犯科帳」は、池波正太郎の累計発行部数3000万部を誇る大ベストセラー。放火、強盗殺人など江戸の凶悪事件を専門に扱う実在の火付盗賊改方長官・長谷川平蔵をモデルに盗賊との攻防を描いた傑作時代小説だ。
昭和44年(1969)には、原作者の強い希望により、初代松本白鸚(当時、八代目松本幸四郎)により初映像化され、その後、丹波哲郎、萬屋錦之介が主演。平成期には二代目中村吉右衛門が約28年間、ドラマ、映画、舞台で演じてきた。そして2024年、新シリーズとして、十代目・松本幸四郎が新たな鬼平として登場。ドラマ、劇場版と展開を続け、好評を博している。
幸四郎は、撮影開始前、役作りのため、馬と殺陣と江戸弁を特訓。殺陣については、凶悪犯を相手にする盗賊改方らしく、きれいにやるより確実に捕縛するため迫力重視で激しい動きの稽古を続けた。そうした経験を積みながら、いよいよ歌舞伎座に見参する「鬼平犯科帳」。幸四郎が自ら、構成・演出を手掛けるこの作品には、ファンをうならせる「泣かせポイント」がある。
ポイントその1は、副題にもあるように叔父である中村吉右衛門への思いだ。
平蔵を演じるにあたり、幸四郎は、『叔父(吉右衛門)のシリーズに憧れて、出演もさせていただきました。歌舞伎の世界では役の継承はずっと続いていることで、祖父と叔父が大切にしてきた鬼平役のオファーをいただいた時は迷いはなく、根拠はないけど自信があるそんな気持ちでした』と語っている。
平成7年(1995)には、吉右衛門も「鬼平犯科帳 血闘」を新橋演舞場と京都南座で上演している。今回、公演ポスター撮影のために幸四郎が身に着けたのは、吉右衛門が着用した衣装だ。舞台のテーマ曲には、吉右衛門版ドラマで使用されたジプシーキングスの名曲「インスピレイション」が使われる。吉右衛門と共演した三代目中村又五郎が平蔵が"本所の銕"(幼名:銕三郎)と呼ばれ放蕩無頼の青春時代を送っていたころの悪仲間で、後に密偵となる相模の彦十役で、市川中車が吉右衛門版のドラマと同じ同心小柳安五郎役で出演するのも、鬼平ファンにはたまらないところだ。
『叔父のファンの方には、十二分に思い出していただきつつ、今の鬼平はわたしですということを知っていただきたい。プレッシャーは大きいですが、僕の目標のひとつです』
ポイントその2は、平蔵を巡る人間ドラマだ。
「血闘」は、旗本・長谷川宣雄(松本白鸚)の嫡男として生まれながら、放蕩無頼な暮らしを送った若き平蔵(銕三郎)が物語の鍵となる。銕三郎が入り浸っていた居酒屋の娘おまさは、少女時代から彼を慕い、後に盗賊改方の密偵となることを志願する。危険な仕事を続けるおまさに危機が迫る……。
銕三郎役は、劇場版「血闘」でもこの役を演じた市川染五郎。演出にあたり、幸四郎は「考えるより、まず前に進む若者」として描きたいという。
『平蔵は若いころから出来た人間じゃなく、悪の世界も見てきた。完全無欠のヒーローじゃないところがいいですよね。無頼に生きる銕三郎が前に進めば、失敗はあるだろうし、傷も受ける。だからこそ、火付盗賊改方の長官(おかしら)になってからも、悪人のにおいがわかる。過去を隠してないのも平蔵の強さだと思います』
少女時代のおまさを市川ぼたん、強烈な存在感を放つオリジナルキャラクター普賢の獅子蔵役で登場する市川團十郎にも注目が集まる。
『しっかり者で銕三郎に意見までする少女時代のおまさをどなたに演じていただくか考えていたところ、ぼたんさんに決まり、僕もとても楽しみです。平蔵が持つ悪に対する鬼の強さ、危機に直面した時でも下がらない強さ、弱い者を助ける強さ、銕三郎時代を描くことで、歌舞伎でも人間長谷川平蔵の魅力をより深く出したい』

歌舞伎の初日と同じく7月5日にはドラマシリーズ最新第6作「鬼平犯科帳 暗剣白梅香」が時代劇専門チャンネルにて独占放送、さらに時代劇専門チャンネルNETでも配信スタートする。
凶賊蛇(くちなわ)の平十郎が、座頭を装う盗賊・彦の市(マキタスポーツ)に平蔵暗殺の手配を依頼。彦の市の話を受けた暗黒街の顔役は、異様な殺気と妖艶な香りを漂わせる刺客・金子半四郎(早乙女太一)を送り込む。平蔵の危機が迫る中、わずかな手がかりから、尾行や張り込みを続け、強敵の正体を探る火盗改方、密偵たち。相模の彦十を演じたのは昨年亡くなった火野正平だ。
放送・配信に先立って開催された初のファンイベント第1回「鬼平犯科帳祭」のチケットは発売3分で完売。幸四郎、早乙女はじめ、まとめ役の筆頭与力・佐嶋忠介(本宮泰風)、お調子者同心・木村忠吾(浅利陽介)など個性的な火付盗賊改方の面々に満席の客席から、熱い声援が送られた。早乙女は、13歳のときに幸四郎の舞台で殺陣に魅せられ、女形中心から、立ち回りのできる俳優を目指したという。気迫のこもった平蔵と半四郎の激闘は大きなみどころとなっている。
撮影は京都の撮影所で行われた。時代劇の技術を継承し、発展させていく意味でも、「鬼平犯科帳」は重要なシリーズだ。
舞台で映像で、令和の鬼平のますますの活躍に期待したい。
更新:07月21日 00:05