建国から今日に至るまで、日本はもちろん、世界に多大な影響を与えてきたアメリカ。2025年1月には、トランプ大統領が誕生しますが、歴代の大統領をよく知らないという人も多いのではないでしょうか。
そこで、近現代史を読み解く際の鍵となるアメリカ大統領について、8回に分けて紹介しましょう。最終回となる今回は、第37代大統領ニクソンを取り上げます。
歴代大統領の中で、最も人気のない大統領がニクソンです。ニクソンは陰湿な謀略家というイメージが強く、汚職の疑惑が絶えませんでした。しかし、ニクソンが成し遂げた政策は重要です。
ニクソンは雑貨屋兼青果店の子として生まれました。優秀な成績であったため、貧しいながらも奨学金を得て、大学を卒業し、弁護士になります。アメリカ企業の世界進出を助ける企業顧問弁護士として活躍しました。
そして、下院議員となり、対ソ連強硬派で「赤狩り」の推進者であった上院議員のジョセフ・マッカーシーとともに反共運動を展開し、名を馳せました。
1952年の大統領選挙で、アイゼンハワーの副大統領候補に指名されます。この時、ニクソンはまだ39歳でした。その後、大統領選挙でケネディと争い敗北しますが、1969年にようやく大統領となります。
ニクソンは、キッシンジャーを国務長官に起用し、泥沼化したベトナムからのアメリカ軍の撤退を模索。1973年、パリ和平協定に基づき、ベトナム戦争を終結させました。戦争は始めるよりも終わらせる方が難しいのです。
ニクソンは1972年、電撃的に中国を訪れ、米中の外交関係を樹立し、ソ連を牽制します。また、ドルと金の交換停止を行ない、為替の変動相場制への移行へ道筋をつけました。環境保護庁の設立、自動車の排気ガス規制など、外交と内政において、多くの成果を達成しましたが、ウォーターゲート事件により、任期途中で辞任しました。
ウォーターゲート事件は、ワシントンのウォーターゲートビルにある民主党全国委員会本部へ、共和党筋の人物が盗聴器を仕掛けようと侵入して、逮捕されたことに端を発したスキャンダルです。不法な情報活動が常態化していることが明るみに出され、ホワイトハウスは事件をもみ消そうとして、かえって疑惑が深まった結果の辞任でした。
【宇山卓栄(うやま・たくえい)】
著述家。昭和50年(1975)、大阪府生まれ。慶応義塾大学経済学部卒業。代々木ゼミナール世界史科講師を務め、現在に至る。テレビ、ラジオ、雑誌など各メディアで、時事問題を歴史の視点でわかりやすく解説している。著書に『「民族」で読み解く世界史』『「宗教」で読み解く世界史』などがある。