2018年12月19日 公開
2019年06月18日 更新
創業88年ともなると、お客様の好みの変化に合わせて、レシピを変えたりしているのだろうか?
「いえ、うちは昔ながらのやり方を変えていません。創業当時から、甘さは控えめでした。『竹むらの餡はさっぱりしている』と言われて、男性のお客様にも好んでいただいてます」
一つだけ正昭さんが復活させたメニューがある。黒砂糖を使った黒餡汁粉だ。
「甘いもの好きは、みんな黒砂糖が大好きなんですよねえ!」
思わず叫ぶ私。
そして待望の試食。池波正太郎の愛した粟ぜんざいは、香ばしく蒸し上げた粟餅となめらかに練り上げた餡のコラボレーションが何とも素晴らしい。仰るとおり、甘さ控えめ。甘いけどくどくない。五十秒で完食。揚げまんじゅうの餡には少しゴマの風味が感じられる。衣の油に負けないよう、餡の味にパンチを効かせているのだ。
「長い間お店を続けてこられて、経営危機のようなものはありませんでしたか?」
「そうですねえ……」
ご自慢の餡のように上品で柔らかな雰囲気の正昭さんは、しばし考え込んだ。
「危機というわけではないですが、バブルの頃は、それまでとお客様の層がガラリと変わりましたですねえ」
日本全国が金に踊っていたあの時代、近所の名店でも毎晩のように宴会が開かれていた。その帰りに団体で「竹むら」にやって来ては、甘味を注文し、土産に揚げまんじゅうを買っていった。
「あの頃は昼よりも、夜のお客様が多かったんです」
「売上げも桁違いに多くなったと思うんですが、支店を出そうというお考えはなかったんですか?」
「いいえ、まったく。うちはこの店を守っていくと決めてました」
えらい! さすがは池波正太郎の愛した店だ。
私事になるが、30年前、家族と一緒に「竹むら」で粟ぜんざいを食べたことがある。「藪蕎麦」でお蕎麦を食べた帰りだった。店も、味も、あの頃と少しも変わっていないことに、何ともいえない気持ちになった。
「年をとるにしたがい、日々に口へ入れる食べものと、おのがこころのうごきとが、私のような男には密接にむすびついていて、どうにもならないのである」(『食卓の情景』)
私はこれを書いた頃の池波さんより年を取ってしまった。だからその気持ちが自分のこととして分かる。『失われた時を求めて』では紅茶に浸したマドレーヌだったが、私には「竹むら」の粟ぜんざいが、失われた時を甦らせてくれたのだった。
竹むら
●千代田区神田須田町1-19
●03-3251-2328
●日・月・祝 休
●営業時間 11‥00〜20‥00(L.O.19:40)
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更新:11月23日 00:05