2018年12月05日 公開
2022年08月09日 更新
山本五十六
鈴木 松田さんにお伺いします。(中略)
ハワイ空襲はいろいろな副産物が出ていますが、やはり蘭印作戦をやるには、黙ってあそこの戦艦辺りを生かしておくよりは、やるにこした事はない、と思うんですが、どんなものでしょうか。
こっちの第二段作戦の第一段ですか。蘭印辺りをやるという事に対する押さえのハワイをやったという事は、一応功績と考えてもいいんじゃないかと思うんですが。
松田 これは全般の構想が、戦の構想が、どうせ連合艦隊だって戦に勝つ事を前提としているから。
勝つのにまず戦艦をやっつける。パールハーバーに行く時はこれをやっつける。
そのうちにミッドウェーを取る。あっちを取る。そのままだ。来てない。これは攻撃態勢ですね。そしてハワイを取ると。
私は日向の艦長でミッドウェー作戦に参加した。その出撃の十日ばかり前に図上演習をやった。
私はアメリカの事を多少知っているというので、図演の赤軍の指揮官をやった。
私は実際戦艦なんかは問題じゃない。そして日本のミッドウェー攻略部隊をやっつけてやろうといって、ミッドウェーを基地とした飛行機ですね、足の長い。それで偵察して、日本の陸軍の輸送船が何杯かいたんですが、14ノットか12ノットぐらいでよちよち歩いていた。あれが上陸部隊だった。そして、これはこんなものを相手にしないで、航空母艦に全力を集中した。
日本の航空母艦は赤城・加賀は、ミッドウェーの基地攻撃に来てたので、空母はスッカリやっつけた。
野元 私は少し出過ぎるかもしれませんが、鈴木さんのご質問に答える意味で言うと、この間座談会で話が出たんだが、とにかく軍令部には大きな作戦計画はなかったんだと。
山本(五十六)さんにしっかり引っ張られてやったんだ。
現に私が記憶しているのは、17年5月にとにかく空母瑞鶴艦長になって行った時には、今度は航空母艦六杯で豪州作戦をやる。豪州の東岸の空襲に行くんだという、それはもうトラック泊地の日程まで出ているの。それがミッドウェーでおじゃんになった。
そういうふうにあなたが手を広げ過ぎて、広げ過ぎて、それがみんなGF(連合艦隊)の計画で進んじゃうといって、全体的な大きな作戦計画は軍令部で作ったのはないんだ。そういう状況ですよ。
(中略)
佐薙 今の野元(為輝・兵44)さんのご発言は、失礼ながら少し言い過ぎだと思います(笑)。
軍令部に作戦計画がなかったというのは、それは少し言い過ぎだと思います。
軍令部では、ミッドウェーよりは豪州と米国の間を遮断するという作戦を重視していたわけだから、フィジー、珊瑚海とかああいう方面で米軍を遮断するという作戦だった。
野元 いや、ここは言い過ぎだったかもしれないけど、現に山岡三子夫(兵49)さんが、私は今度豪州作戦をやるんだ。という事を公言するんだ。そして確認してみたら、日程まで出ている。トラックの泊地で。そういう実情ですよ。それで、軍令部がそれを承認されたかどうかは知らないけど。
そういう思想が私はあったんだと、それで豪州を、例えばシドニーとかあの辺までやらされて、僕らも戦死したんだろうと思うんだよね。そういう事ですよ、GFのやり方は。
佐薙 真珠湾攻撃にしましても、それからミッドウェー作戦にしましても、軍令部の当初の計画よりも、山本長官の非常に強い意向に引きずられたという事は事実です。これはもう全くの事実ですね。
野元 山本さんを押さえきれなかったと、失礼ながら。そういう事だと私は思うんですね。
佐薙 それからもう一つ、この間の「中央公論」の座談会でも、ほとんどの艦長をなさったご経験者が、真珠湾攻撃は失敗だったと。
それから今の松田さんも、非常に真珠湾攻撃を失敗だと。
確かに真珠湾攻撃は功罪両方あると思います。
しかし、アメリカ海軍の対日作戦計画を検討しますと、大戦を早々にマーシャル方面その他に、アメリカの海軍の作戦計画は実際に一九五一年六月まではハワイまでの線にとどまっていると。フィリピン辺りには手を触れないというあれだったんですが、マーシャル参謀総長の強い意見と、その頃B17が出来たという事から、フィリピンまで手を伸ばすと。そして米海軍サイドの作戦計画では、開戦早々にマーシャル方面に進攻するという計画だったんです。
ですから、先ほどのパールハーバーはリメンバー・パールハーバーとか、いろいろ具合の悪い影響もありましたけれども、日本はとにかく南方作戦で資源自体をとにかく確保しなければ、日本は生き延びられないんだという事で、南方作戦を重視してやった時に、ハワイを叩かずに、アメリカの太平洋艦隊が早々にマーシャル方面に出てこられたら、連合艦隊のてんやわんやといいますか、南方作戦も中途半端になってしまって、いろいろ苦しい作戦になったと思うんです。
そういう点からパールハーバーの攻撃は、功罪半ばしているのであって、あれは大失敗であった。或いは、日本の敗戦の根本の原因はここにある。とここにちょっと書いてありますが、これは私は言い過ぎだと思う。よほど検討してあれしなくちゃいけないと。
野元 軍令部に対して暴言に値する(笑)。
だけど、現にチャーチルが言った事が本当だとすると、これで戦争に勝った、とチャーチルは言ったらしいです。それはアメリカの戦意を強固にしたという事にもなった。
アメリカの国力と、プラス国民の戦意という事が併さると、そこでもってチャーチルが見るのにはこれはもう大丈夫だと思ったんじゃないかと私は思うんです。
鳥巣 私は、今松田さんが言われましたパールハーバーの功罪問題ですが、私はそれ以上にもっとアメリカに対して非常にプラスになる。
非常にまずかったのは、パールハーバーでいわゆる中途半端な成功で、完全に成功しなかったにもかかわらず、日本の連合艦隊を有頂天にさせた、奢らせた。
それで、まるで自分たちは作戦の神様のように、要するに奢って、いわゆる嬌兵になった。これが非常に大きなパールハーバーのマイナスだと思いますよ。
更新:11月24日 00:05