2025年02月04日 公開
建国から今日に至るまで、日本はもちろん、世界に多大な影響を与えてきたアメリカ。2025年1月には、トランプ大統領が誕生しますが、歴代の大統領をよく知らないという人も多いのではないでしょうか。
そこで、近現代史を読み解く際の鍵となるアメリカ大統領について、8回に分けて紹介しましょう。5回目となる今回は、第一次世界大戦への参戦を決定した第28代大統領ウィルソンを取り上げます。
2020年5月に米ミネソタ州で、黒人が白人の警察官に殺害された事件で、黒人差別に反対するBLM(Black Lives Matter)運動が起こりました。この運動の影響で、プリンストン大学の研究機関として有名な「ウッドロウ・ウィルソン・スクール」の名称から元大統領の名前を外すと大学が発表しました。大学は「ウィルソンの人種差別は、当時の基準に照らしても重大だった」と説明しました。
ウィルソンは国際平和主義者として讃えられますが、露骨な人種差別主義者で、プリンストン大学の学長だったときに、黒人学生の入学を認めませんでした。また、1919年、国際連盟で、日本が提案した人種差別撤廃宣言に、強硬に反対したのもウィルソンでした。
1917年、ウィルソンは第一次世界大戦の途中から、連合国側で参戦することを決定します。翌年、ウィルソンが議会において行なったのが、有名な「十四カ条宣言」です。その第五条には、植民地問題の公正な解決方法として、各民族はその政治的な運命を自ら決すべきとする、「民族自決」の原則が記されていました。
しかし、この原則とは裏腹に、ウィルソンは中南米諸国への支配を強化しています。ウィルソンはセオドアの「棍棒外交」を批判していますが、ハイチを保護国化し、ドミニカをアメリカの支配下に置き、メキシコ革命に武力干渉するなど、「棍棒外交」以上に強圧的な姿勢を中南米諸国にとっています。
第一次世界大戦後の1920年、ウィルソンが提唱した国際連盟が発足しますが、アメリカ自身は国内議会が反対し、参加することができませんでした。
このときのアメリカ議会の多数派は共和党で、民主党のウィルソンと対立していました。ウィルソンは国際連盟設立の件で、事前に共和党に根回しをせず、単独で事を進め、共和党議員らの反発を買っていました。普通、このような重要な外交案件では、与党が野党に対する議会対策を事前に根回ししながら、事を進めていきますが、ウィルソンは議会運営に疎く、これを軽視したため、足をすくわれてしまいました。
そもそも、ウィルソンは政治家でも党派人でもなく、大学教授でした。理想主義的な発言をするコメンテーターとして人気を博し、ニュージャージー州知事、そして大統領になった人物ですので、議会運営がうまくいかなかったのでしょう。
【宇山卓栄(うやま・たくえい)】
著述家。昭和50年(1975)、大阪府生まれ。慶応義塾大学経済学部卒業。代々木ゼミナール世界史科講師を務め、現在に至る。テレビ、ラジオ、雑誌など各メディアで、時事問題を歴史の視点でわかりやすく解説している。著書に『「民族」で読み解く世界史』『「宗教」で読み解く世界史』などがある。