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第17代・履中天皇と住吉仲皇子事件

2019年05月26日 公開

吉重丈夫

履中天皇陵
履中天皇陵(大阪府堺市)
 

令和改元という節目の年に、歴代天皇の事績をふりかえります。今回は「履中天皇」と「反正天皇」をお届けします。

※各天皇の年齢等については数え年で計算して記しています。
※即位年、在位年数などについては、先帝から譲位を受けられた日(受禅日)を基準としています。
※本稿は、吉重丈夫著『皇位継承事典』(PHPエディターズグループ)より、一部を抜粋編集したものです。

吉重丈夫著『皇位継承事典』
 

第17代・履中天皇
世系22、即位65歳、在位6年、宝算70歳

皇紀996年=仁徳24年(336年)、先帝・仁徳天皇の第一皇子として誕生された。

諱は大兄去来穂別命(おおえいのいざほわけのみこと)で、母は葛城襲津彦(かずらぎのそつひこ)の娘で先帝仁徳天皇の皇后・磐之媛である。外祖父となった葛城襲津彦は武内宿禰の子、葛城氏の祖であり、葛城氏は大和葛城地方(奈良県御所市 葛城市)に本拠を置いていた有力な古代在地豪族である。

皇紀1003年=仁徳31年(343年)1月15日、大兄去来穂別命が8歳で立太子された。

先帝崩御の56年前で、仁徳天皇は早くからこの第一皇子・大兄去来穂別命を後嗣として決めておられたことになる。
 

住吉仲皇子事件

皇位継承(応神、仁徳、履中、反正、允恭ところが、先帝崩御の直後、即位直前に大事件が発生した。

皇紀1059年=仁徳87年(399年)、大兄去来穂別命は羽田矢代宿禰(はたのやしろのすくね)の娘・黒姫を妃にしようと、その婚礼の日取りを告げに、同母弟で第二皇子の住吉仲皇子(すみのよしえのなかつみこ)を黒姫のもとに遣わされた。

ところが皇子は太子と偽って黒姫を犯す。そして帰りにたまたま持っておられた鈴を忘れて帰られた。

翌日、太子・大兄去来穂別命が来られ、「これは何の鈴か」と問われるので、「昨日持ってこられたではないですか」と答えられ、太子は事情をお知りになる。

住吉仲皇子は発覚を恐れ、先手を打って太子を殺そうと密かに兵を挙げ、太子の邸(難波)を包囲する。そこで平群木菟宿禰(へぐぢのつくのすくね)らが酔った太子を担ぎ出し、馬に乗せて連れ去る。

住吉仲皇子の軍は邸を焼き払うが、太子は石上神宮(奈良県天理市)へと無事逃れられる。

逃げる途中、出会した少女に「伏兵が居るので遠回りし当麻道を越えて行け」と教えられ、簡単に越えられる穴虫峠(大阪府南河内郡太子町と奈良県香芝市の間)を避け、遠くて、標高も高い竹之内峠を越えて行かれた。

太子の安否を気遣って追って来られた同母弟の瑞歯別皇子(みずはわけのみこ 反正天皇)に命じて住吉仲皇子を誅殺させる。

瑞歯別皇子も住吉仲皇子と通じているのではと、太子は疑われたようで、敢えて瑞歯別皇子に住吉仲皇子の討伐を命じられた。

この事件は、住吉仲皇子が皇位継承を争った事件ではないので、先帝の後嗣決定に直接影響を与えたわけではない。

しかし、平群木菟宿禰らが太子を拉致し連れ去らなかったら、あるいは逃亡途中で少女が情報をくれなかったら、太子は殺害されていた。

そうなったとしたら誰が後嗣として即位しておられたか全く予想もつかない。大乱に発展していた可能性もある。住吉仲皇子は大兄去来穂別命の同母弟で、第二皇子であるから即位も充分あり得たものと思われる。

皇紀1060年=履中元年(400年)2月1日、大兄去来穂別命が磐余稚桜宮(いわれのわかさくらのみや、奈良県桜井市池之内)にて65歳で即位される。住吉仲皇子の事件で即位が1年遅れた。

翌年の履中2年春1月4日、即位が65歳と遅かったので、早々に同母弟の瑞歯別皇子を皇太子(皇太弟)に立てられた。

履中天皇には皇后・黒姫との間に皇子の磐坂市辺押磐皇子(いわさかのいちべのおしはのみこ)と御馬皇子がおられたが、天皇は弟皇子・瑞歯別皇子を立太子させられた。ここでは皇子を差し置いての立太子であった。

皇紀1064年=履中5年(404年)9月19日、皇妃・黒姫が薨去される。

皇紀1065年=履中6年(405年)春1月6日、黒姫の薨去を受け、応神天皇の皇女・草香幡梭姫皇女(くさかのはたびひめのひめみこ、幡日之若郎女:はたびのわかいらつめ)を皇后に立てられた。父帝・仁徳天皇の異母妹であるから叔母に当たる。

草香幡梭姫皇女との間に中磯皇女(なかしのひめみこ 中蒂姫命)が誕生され、大草香皇子(おおくさかのみこ)の妃となられ、後に「眉輪王の変」のあと安康天皇の皇后となられた。

皇紀1065年=履中6年(405年)3月15日、在位6年、70歳で崩御される。

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