2015年04月23日 公開
2022年12月07日 更新
2015年4月23日、木曜日です。東京も気温が20度を超え、あたたかな日差しが注いでいます。
弊社のそばのとあるお店の前には、毎日小さな黒板が出ていて、日付にちなんだコラムが書かれています。
それによれば、4月23日は、「日本では忘れ去られてしまった」とある記念日なのだそうです。
その名は「サン・ジョルディの日」。スペインのカタルーニャ地方発祥のお祭りで、男の人は女の人に1本の薔薇を、女の人は男の人に1冊の本をプレゼントする日なのだとか。
私も知らなかったので、帰社してからちょっと調べてみたのですが……
まずカタルーニャ地方とは、スペイン第2の都市・バルセロナを含む、北東側の地域です。「カタロニア」とも言って、日本でも、F1のカタロニアサーキットや、ジョージ・オーウェルの『カタロニア讃歌』で名が通っているかもしれません。
地中海に面していてあたたかく、気持ちが良い陽光の注ぐリゾート地でもあります。
4月号で募集した、弊誌読者ページ脇本陣のお題「一度は行ってみたい世界の史跡」では、バルセロナにあるガウディの建築「サグラダ・ファミリア」(建築家本人は亡くなったものの、まだ建造が続けられている教会)にも票が集まっていました。
(この結果については、来月発売の6月号をご覧ください!)
そんなカタルーニャではスペインからの独立運動が盛んで、昨年も独立するかどうかの住民投票が行なわれ、話題になりました。結果は、8割が「独立したい」(この投票自体は非公式なもので、実効力はなかったのですが……)。
カタルーニャは、歴史的にも、スペイン本国とは付いたり離れたりの関係を続けてきました。スペイン政府のそのときどきの方針で、自治権を与えられたり、接収されたり。しかし第二次世界大戦のフランコ独裁政権下で強く弾圧され、地方独特の「カタルーニャ語(カタラン)」も禁止されたため、戦後、その抑圧が解かれてからは、特に独立の気運が高まっていきました。
さて、では「サン・ジョルディ」とは誰なのでしょうか。彼は、西暦303年4月23日に殉教し、いまも英雄視される騎士です。彼はその昔、町を脅かす凶暴なドラゴンを退治して囚われの姫を救出し、住人みなの尊敬を集めました。
そのドラゴンの血から美しい薔薇が咲いたので、以来サン・ジョルディを称えるために、毎年彼の命日には1本の薔薇を贈りあう習慣が生まれたそうです。
とすると、本を贈るのはなぜ? という疑問がわきますが、その起源はもっと新しく、先ほど述べたフランコ独裁政権のころのこと。カタルーニャ語を禁止された住民たちは、それに反発し、毎年4月23日にはひっそりと互いにカタルーニャ語の本をプレゼントしあい、祖国への思いを確認したそうです。
随分危険な贈り物ではありますが、いつかサン・ジョルディのように、独裁者を倒して自分たちの文化という花を開いてみせよう、という思いがこめられているのでしょうか。
フランコ打倒後、自治権を勝ち得たカタルーニャ政府は、この記念日を公の祝日として定めました。これにちなんで、国連ユネスコも、今日を「世界図書・著作権デー」としています。
今ごろ、カタルーニャでは、通りに本の市場が並び、活気づいているのでしょうか。
ちなみに日本でも1980年代ごろから、この記念日を導入(?)しようという動きがありましたが、やはり人に本を贈るというのはなかなかハードルが高いようで、クリスマスやバレンタインデーのようには定着しなかったとか。確かに、相手に気に入ってもらえる本を選ぶというのは、真剣に考えれば考えるほど難しいですが、それだけに素敵な贈り物だとも思います。
余談ですが、カタルーニャにとどまらず、スペインはとても地方色の強い国です。
日本で「スペイン料理」というと思い浮かぶ「パエリア」や「アヒージョ」「ガスパッチョ」「ピンチョス」……それぞれ違う地方の料理です。たとえば、首都・マドリードでおいしいパエリアを食べようと思うとなかなか難儀。
ひとことでスペインとはいっても、相当に奥深い国なのです。
更新:11月23日 00:05