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天海は蘆名氏ゆかりの人物だった? 会津美里に残る「名僧の生誕秘話」

2024年05月14日 公開
2024年05月16日 更新

歴史街道編集部

天海大僧正石像写真:天海大僧正石像

会津の戦国大名・蘆名氏と、日本最大級の山城・向羽黒山城のある会津美里町に焦点を当てた時、ある人物の影が浮かび上がってくる。徳川家康・秀忠・家光の三代に仕え、天下の名僧として知られた天海だ。

天海の前半生については諸説あるが、実は蘆名氏ゆかりの人物で、出身地は会津美里町と考えられているのだ。町内にあるゆかりの地から、天海の知られざる人生の一端をのぞいてみよう。

 

天下の名僧にふさわしい生誕伝承の地

清龍寺写真:清龍寺

日本最大級の山城・向羽黒山城から車で10分ほど西に進むと、会津美里町の高田地区に至る。その地区には、天海ゆかりの地が数多くある。そのひとつが、清龍寺文殊堂だ。

天海の父は舟木景光、母は蘆名一族の蘆名盛常の娘と伝わっているが、夫妻はなかなか子を授からなかったようで、この文殊堂に籠もって祈願したという。

そして天文5年(1536)、天海は生を享けたとされる。文殊様は知恵をつかさどる菩薩様とされ、この寺の文殊堂は日本三大文殊のひとつに数えられる。天下の名僧に相応しい、生誕伝承の地といえよう。

文殊堂天海が実際に生まれた場所は舟木氏の舘とされ、JA会津よつば高田総合支店の前に、「慈眼大師御誕生地」の碑が立つ。そしてその向かい側には、天海の石像が、ひときわ存在感を放っている。

昭和53年(1978)に地元の人々によって建立されたもので、天海はやはり、地域が誇るべき人物なのだろう。そしてその石像のすぐ近くには、護法石が鎮座している。これは舟木景光夫妻が、我が子の誕生を喜び、屋敷内に祀ったものと口承されている。

また、天海が日輪を拝んだ遙拝石ともよばれているそうだ。いずれにしても、不思議な力を感じさせる石であり、だからこそ後世の人々も天海ゆかりの石として語り継いできたのだろう。

護法石写真:護法石

 

逸話が伝わる寺社

天海大僧正両親の墓
写真:天海大僧正両親の墓

舟木家の子として生まれた天海だが、いつ、仏門に入ったのだろうか。その歴史を今に伝えるのが、龍興寺である。この寺は嘉祥年中(848~850)、慈覚大師により開山された天台宗の名刹で、舟木家の菩提寺でもある。

天文15年(1546)、天海は11歳でこの寺で得度し、「随風」と名乗ったという。そしてこの寺で数年修行した後、各地を遊学したそうだ。

ほかにも、この寺には天海ゆかりのものが数多く残されている。大正4年(1915)には、境内に埋もれていた天海の両親の墓が発見され、再祀されているのである。

また、境内に立つ浮身観音八葉堂には、天海が10歳のころに霊夢によって発見した観音像が祀られている。こちらは毎年11月3日にご開帳される。

龍興寺の浮身観音八葉堂
写真:龍興寺の浮身観音八葉堂

そして本堂には、天海の木造坐像が安置されている。こちらは、壮年のころの姿をかたどったものという。さらに興味深いところでは、龍興寺には伊達政宗が天海に送った書状も伝わっている。その手紙からは、政宗が天海を頼りにしている様子がうかがえるそうだが、政宗といえば蘆名氏を攻め滅ぼした人物。天海と政宗がどんな関係性にあったのか、実に気になるところだ。

最後に、天海が会津美里町に残したものを紹介しよう。清龍寺文殊堂のすぐ南側に、岩代国一之宮・会津総鎮守の伊佐須美神社が鎮座している。

荘厳なる鳥居と門をくぐると、本殿の東側に、ひときわ目を惹く巨木が聳えている。「天海大僧正御手植檜」といって、永禄元年(1558)に天海が植えたものと伝わる。450年の時を超え、いまなお茂る檜をみると、会津という地に対する天海の深い想いが伝わってくるようだ。

天海の生涯はいまなお、多くの謎に包まれている。それでも、会津美里町に残されたゆかりの地は、その謎めく人生の一端を、垣間見せてくれるのである。

伊佐須美神社写真:伊佐須美神社

天海大僧正御手植檜写真:天海大僧正御手植檜

 

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