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勝海舟はチョコ、山岡鉄舟はあんぱん 幕末志士たちの意外なスイーツ愛

2025年10月22日 公開

山村竜也(歴史作家)

あんぱん

昨今、巷に増えている「スイーツ男子」。しかし、幕末維新に活躍した男たちの中にも、甘い物が大好きな者たちがいた。政争や暗殺などが頻発した時代であっても、スイーツをこよなく愛した男たちを紹介しよう。

 

江戸っ子・勝海舟が救った菓子店

坂本龍馬の師匠でもある幕臣・勝海舟は、イメージとはうらはらに下戸であったといわれています。そして、酒の飲めない者によくある話ですが、海舟もまた甘い物好きでした。

若き日に長崎海軍伝習所で修業していた時のこと、オランダ人教師からチョコレートをもらった話が、海舟の随筆「蚊鳴餘言」に出ています。

出島のあった長崎では開国前から、「異国の珍品」としてチョコレートに接した人もいたようですが、当時は薬として用いられていました。嗜好品としてチョコを口にした日本人は、海舟が初めてということになるかもしれません。

この頃のチョコレートは、湯に溶かして飲む、ホットチョコレートでした。

「ショコラートは我邦近世製する処の懐中しること唱ゆる者の如く、乾きて方形をなしたる菓子なり。是を熱湯に投じて汁粉の如くなし、砂糖を加へ飲む。味、随分美なり」

カカオの香りと砂糖が相まって、「美なり」な美味しさに、海舟の頰もゆるんだことでしょう。

さて、そんな海舟が西郷隆盛と談判して江戸無血開城をなしとげ、徳川幕府の幕引きに尽力した時のことです。 江戸市中の商店が、「長いあいだ徳川様にお世話になったのだから」といって次々に店を閉めていきました。彼らにしてみれば、明治政府が支配する新時代に、自分たちの居場所はないという思いだったのでしょう。

寛永年間(1624〜44)創業で最中が名物の菓子店「壺屋」も、その一つです。伝統ある同店も閉店しようとしていたところ、日頃から客として利用していた海舟がやってきて、こういったといいます。

「江戸の者がみな、壺屋の菓子を食べたいといっているから続けるように」

もちろん壺屋の菓子がなくなって困るのは、当の海舟もそうでした。この言葉に元気づけられた壺屋は、閉店をとりやめ、人々は引き続き江戸の銘菓を食べられることになったのです。

現在も東京・文京区本郷で営業が続けられている壺屋総本店の店内には、海舟から贈られた書が飾られています。

 

山岡鉄舟が推したあんぱん

江戸無血開城のもう一人の立役者といわれる幕臣・山岡鉄舟にも、スイーツにまつわる話があります。

菓子パンの元祖である「あんぱん」は、明治7年(1874)に銀座の「木村屋」で初めて作られたものです。主人は木村安兵衛という旧士族で、息子の英三郎とともに、パンの中に餡を入れた、新製品の開発に取り組んでいました。

主人の木村安兵衛は旧幕時代、剣術修行に励んだ武士でしたが、剣術仲間の一人に山岡鉄舟がいました。二人は明治になってからも交遊があったので、安兵衛はできたばかりのあんぱんを山岡に試食してもらっています。 

すると山岡は、「これ、うまいじゃないか」とすぐに気に入ったといいます。それまで山岡はさほど甘い物好きではありませんでしたが、木村屋のあんぱんはよほど美味しかったのでしょう。そして、「天皇陛下にも献上してはどうか」と大胆な提案をします。実はこのとき、山岡は明治天皇の侍従をつとめており、仲介しやすい立場にあったのです。

あんぱんに桜の花びらの塩漬けを埋め込む改良をして、明治8年(1875)4月4日、天皇の向島行幸の際に献上されます。この「桜あんぱん」の味を天皇・皇后が喜び、木村屋は皇室の御用達としてパンを納めることになったのでした。

現在も銀座の木村屋の前を通ると、「木村屋」とあしらわれた大きな看板が目に入ります。原本は能書家としても知られる山岡鉄舟によるもので、幕末スイーツ男子の足跡はこんなところにも残されているのです。

このほかにも、西郷隆盛、渋沢栄一、大隈重信など、幕末維新期の人物は意外と甘い物好きが多かったことに驚かされます。スイーツ男子は現代の流行かと思ったら、実はそうではなく、幕末維新の頃にはすでに誕生していたのです。

 

【山村竜也】
歴史作家。昭和36年(1961)、東京都生まれ。中央大学卒業。歴史作家、時代考証家。NHK大河ドラマ『新選組!』『八重の桜』、NHKBS時代劇『広重ぶるう』『雲霧仁左衛門』などの時代考証を担当。著書に『世界一よくわかる幕末維新』『幕末維新 解剖図鑑』など多数。

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